第14話

だけど、そばにいればいるほど、気付いてしまうもんだ。



気付かなくていいことまで。



恋する女は、感覚が鋭く研ぎ澄まされていくのが世の常なのか、



東条さんが追う視線の先に、誰がいるのか。



この1ヶ月で、疑惑が確証にかわる。



「東条さんが片想いしてるのって……羽田先生ですよね?」



コンクールの課題曲を弾いていた指が止まる。



「……違うよ、」



「そうなんだ」



嘘つき。



「笹原さんの知らない人だって言ったろ?」



「残念、当たりだと思ったのに」


「はずれ、」



「……」



楽譜を捲る東条さんの指を見つめながら、頭の中では頻りに、「嘘つき」と繰り返していた。



「こっち、おいで」



長くて大きな手が、わたしを招く。



黙って立ち上がり、ピアノと向かい合う東条さんのそばに近寄る。



「恋人に、他の女性の事を勘繰られるなんて、浮気を問い詰められてる気分になるね」



「擬似恋人だもん」



「でも、いい気はしないな」



「……ごめんなさい」



素直に謝ると、東条さんの手が髪を撫でた。

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