第5話

「まぁ、うん。お前の気持ちも分かるけど、矢崎も矢崎で色々あんだろ」


「色々ってなに?」


「色々、っていったら色々だよ」



なにそれ!


キィッと言いたくなる気持ちを抑えて篤くんを見上げる。


男同士にしか分からない事なら、私にはどうしようもない。



「お前こそ、なんで矢崎なの?知ってるぞ、お前先週バスケ部のキャプテンに告られただろ。彼奴の方がお買い得じゃね?」



篤くんの口から出て来た言葉に、隣にいた亜紗ちゃんを睨む。


告白されたこと、亜紗ちゃんにしか話してないもん。


そんな私の視線に気づいたのか、篤くんは違う違うと手を振った。



「偶然見かけた奴がいるんだよ、だから眞山から聞いたわけじゃない」


篤くんのフォローに亜紗ちゃんがほんのり頬を染めた……のに気づいたのは多分私だけだ。



「ち、壁に耳あり障子に目ありだな」


舌打ちした私に、篤くんは壁でも障子でもねぇよ、と笑った。


まぁ、告白された場所は体育館で、昼休みに遊んだ後の片付けの時なんだけどね。


受験生が愛だの恋だの随分余裕だなって思うかもしれないけど、私は専願推薦で私立への合格が決まり、才女の亜紗ちゃんもじきに迎える公立高校受験を前に焦る様子もない。


篤くんも私立は既に決まっているみたいで、少し前の時期より、余裕を見せて私の恋愛事情に絡んでくるのだ。

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