第75話

高田くんが宇野くんと待ち合わせをした道の駅はホテルから10分程歩いた場所にあった。


ここもゴールデンウィークのイベントで、店内や外に並ぶ露店に大勢の人で賑わっている。


あえて隠れなくても人混みが壁になってくれそうで、高田くんから少し離れた場所、建物の影から宇野くんがやって来るのを待っていた。



「宇野!」



高田くんの声が響き、彼が手を振る先を見る。



「誰だろう、隣にいる女」



私の代わりに隣にいた市原さんが、ボソッと呟いた。


私の目にも映っていた。高田くんに向かって歩いてくる宇野くんの隣には、彼より少し低いけれどスレンダーなショートカットの美少女が寄り添っていた。


高田くんが明らかに動揺した様子で、私達の方へ視線を向けるのが分かった。



「司、久しぶり」


「お、おう。久しぶり」



声がギリギリ聞こえるか聞こえないかといった距離で、周囲の雑音に消えてしまいそうな高田くんと……久しぶりに聞く宇野くんの声。


彼の声を聞いただけで、胸の奥から込み上げてくるものがある。でもそれをグッと堪えた。


目に映る宇野くんの姿は、あの日水族館で会った時よりも、少し痩せたように見えた。


もっと近くで彼の顔が見たかった。声を聞きたかった。


だけど、そうすることができないのは、隣にいる女の子のことが気になっているから。


本当なら、高田くんが宇野くんを私達のところに連れてきてくれる筈だった。


驚かそうと思って隠れていたけれど、今の状況では出ていくこともできない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る