five color

第45話


「いろは、今日から新学期でしょう?遅刻しないように早く出なさいよ」



母の急かす声を背に、私は既に玄関で靴を履いていた。


分かってる。

言われなくても今日は早く行くつもりだった。


だって、早く会いたいから。


宇野くんに。


会いたいよ。


そして聞きたい。


どうしてあの日以来会えなくなったのか、連絡すら取れなくなってしまったのか。


今すぐ聞きたくて仕方ない。


あの日、水族館のあと家の近くまで宇野くんは私を送ってくれた。


翌々日の図書ボランティアの日に会う約束までした。


それなのに、彼は姿を現さなかった。


春休みの間、図書ボランティアには一度も来ずに、館長から「宇野くんからは既にボランティアをやめることは聞いていた」と後になって私は聞かされた。


RINEも既読もつかない。


電話は全て留守番電話に繋がってしまう。


もしかしたら、私はあの日宇野くんに嫌われることをしてしまったんだろうか?


好きだと言ってもらって、有頂天になって彼を傷つけてしまったんだろうか?


いくら考えても分からなかった。


それでも私は諦めていなかった。


新学期になれば、学校できっと会えると思っていた。

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