第29話

いつもと変わらない態度で。それを頭の中で繰り返しながら、教室に足を踏み入れた。


自分の席に座り、ゆっくり顔を上げて周りを見る。


久しぶりに会うクラスメイト達を見ても、なんの感慨もなかった。


みんながみんなぼやけて見えてしまう。


でも、たった1人だけは違う気がする。それが今日、この教室で彼を見てはっきりと分かる気がした。



「いない……」



落胆がそのまま溜息と共に溢れた。


昨日、終業式の話をした時は休むなんて言ってなかった。


急に体調を崩したんだろうか?


気にはなるけれど、誰に聞いたら彼のことが分かるのか分からない。


つまんない。


寂しい、な。


そんな風に考えて、そんなふうに思った自分に驚いた。



「御門さん」



躊躇いを含んだ声に呼ばれて、その声の持ち主を見つけた。


情けないな。この人の名前も覚えてない。


でも、多分田中、とか、高田とか、そういう名前だった気がする。



「あの?」



呼ばれたきり何も言わずにいた男子は、ハッと我に返った様子で頭を小さく左右に振った。



「宇野、今日は休みだから。アイツにあんたに言うように頼まれてたから……だから」


「わ、わざわざありがとう。宇野くんどうかしたのかな?」


「色々忙しいんじゃね?アイツんち今は……」


「高田!」



話の途中で高田と呼ばれて振り返った彼に、話の続きをちゃんと聞きたかったけれど、彼はそのまま「じゃあ」とだけ言って呼ばれた方へ行ってしまった。

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