第16話
「何してるの?」
ぽわんと寝惚けたような宇野くんの様子に、寝顔を見てしまった罪悪感がフツッと消えた。
逆にほんの少し咎めるような口調で言った。
「怒ってるのか?」
「……怒られることをしたの?」
自覚の有無を確認したくて問い返すと、宇野くんは「そうかも」と言って、枕にしていた本の全てを私の前に差し出した。
「御門さんが来たら、すぐ渡せるようにしたかったんだけど、あれから全然来ないから待ちくたびれて寝てた。だから、今日も夢かと思ったんだよ」
あの日からずっと私を待っていたんだ。
夢に見るほど?
宇野くんが無茶苦茶な事をしていることに呆れていたのに、そんな事を言われたらどう返していいか分からない。
「読まない本をキープしておくなんて、他の人に迷惑だから。借りる気もなかったし……」
「そうなのか?なんだ、気にして損した」
さっきから、宇野くんが使う言葉が微妙に気になる。
待っていたとか、気にしていたとか、言葉のチョイスがおかしい。
「……とりあえず、この本は今日読んでしまうつもりだから、明日からは今日みたいなことはしないで」
「分かった」
素直に頷く彼を見届けて、私は立ち上がって本を抱えた。
「……どこ行くの?」
宇野くんがら座ったまま視線をあげてくる。
「あっちで読もうと思って。私、人の目があると集中できないの」
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