第6話
「いってらっしゃい」
母が送り出すその声に、「いってきますと」答えて家を出た。
自転車に跨り、ペダルを漕ぐと顔に当たる風が冷たくて思わず首をすくめた。
この風が、四方の山から花粉を運んでくるのだと想像した途端くしゃみがではじめた。
マスクに花粉予防の眼鏡をつけていても、花粉は私の体の粘膜という粘膜に侵入してアレルギー反応を起こす。
「くそう、」
思わず零した声は、柄が悪くてちょっと後悔した。
家から市立図書館までは自転車で30分。
近いんだか遠いんだか分からない距離。それでも開館から閉館まで、時間はたっぷりある。
飲食禁止は分かっていて、バッグの中にキャンディとチョコレートは忍ばせておいた。
あ、ティッシュを箱ごと持ってくるべきだったな。
鼻をシュンと鳴らして奥に溜まっている重たい感覚にうんざりした。
風をまともに受けながら、それでも急いで自転車を漕ぎ、図書館の自転車置き場に自転車を置いて図書館の中へ入る。
二重扉の一つ目で上着の表面を払った。
これで花粉はどの位落ちてくれたのだろう?
小さく吐いた溜息と同じ分だけ花粉もこぼれ落ちてくれればいいのに。
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