第12話

「そんなことより、新入社員の可愛い女の子とのデートはどうだったの?」



話を変えたかったとは言え、なんであの子のことなんて話題に揚げてしまったのだろう?


自己嫌悪にしかならない。



「あー?」


「あ、偶然彼女と他の女子社員が話しているの聞いちゃって……」



あぁ、あの子か。


そう言った健太の顔はなんだか不機嫌だった。もしかしてうまくいかなかったのだろうか?


それならそれで、ホッとするけど。


これ以上健太の彼女が増えるのは、胃に悪い。



「飯、食いにつれて行ってくれっていうから付き合っただけ。それより、なぁ、香奈の欲しいもの聞いてるんだろ?」



欲しいものなら一つしかない。


健太の唯一になれる権利。


そう言える関係ならどれほど幸せだっただろう?



「別に、今はないかな」


「……本村には言ったのに?」



不意に健太の口から本村の名前が出てきて焦ってしまった。


パッと体を起こした私に、健太の目が訝し気に向けられる。



「香奈って、本村と付き合ってるのか?」


「え?」



健太も体を起こして、私に向き直る。


真っすぐ射貫くように向けられる視線が鳩尾の辺りを重くする。



「アイツから、聞いた。香奈に告白したって話」



告白と聞いて、あの時の本村のキスを思い出して、咄嗟に両手で口元を隠した。

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