スーパー怪人の災難

悠真

 いつもの公園の砂場で一人息子を遊ばせていた。

 木陰のベンチでは、妻がたまに目を合わせると手を振ってくれる。

 実に美しい休日の家族の風景だ。

 そこへけたたましい音を立てた一台のバイクが現れた。

 

 公園の入り口あたりに停めるなり、バイクにまたがっていた白いジャージ姿の男が降り立った。

 (真昼間から珍走団の一味か)と私は身構える。

 男はヘルメットを外すと、周りをぐるりと見回した。

 公園には、他にたいした人影はない。

 向こうの端で老夫婦が休んでいるくらいである。

 あと、実は私の部下たちが車二台に分乗して、公園のフェンスの向こうがわで待機している。

 不審者が現れたことで、部下であるガマ怪人たちにも動きが見えた。


 ジャージ男が、肩をいからせて公園内に入ってくる。

 妻は、こちらを見ると眉をひそめた。

 やつは、私のほうへ向かってきた。

 それに呼応して、私は立ち上がって裾の砂を払う。

 やがて、やつが立ち止まり、私と対峙した。

「私に何の用だね?」

 するとやつは口の端を歪めて微笑むと私を指さした。

「貴様が、スーパーマンか」

 驚いた。面識もないのに、やつは私の名前を知っているようだ。

 しかも、初対面の相手に向かって”貴様”はないだろう。無礼である。


「なぜ、その名を?」

 私は、それでも落ち着き払って尋ねた。

 が、やつは鼻で笑ったきりだった。

 答えそうにないので、私は質問を変えた。

「君は、誰だ?」

 やつは首をかしげるようにしてからいった。「それは、このオレに勝ってから教えてやる」


 私はそこでようやく、どうやら喧嘩を売られているらしいことに気づいた。

 危機を感じて、私は車の外に出て居並ぶ部下たちに目配りする。

 彼らは、いつでも公園に入ってこられるように構え始めた。


「父ちゃん」

 息子が私を見上げて、砂まみれの指を立てた。

「このおじさん、誰?」

「それは父ちゃんにもわからん」

「知り合いじゃないの?」

「初めて会うおじさんだよ」

「なにしにきたの?」


 おっとそうだった。それをたしかめて、やつの出方しだいによっては私も対処しなくてはならない。


「そう、君は私に何の用なのだ?」

 私は憤然としていった。

 やつは、肩をすくめた。

「貴様を成敗しにきた」

 あまりに唐突な説明で、私はあっけに取られてしまう。

「人違い……いや、怪人ちがいではないのか?」

 ようやくそれだけをいった。


 私は怪人スーパーマンである。

 あの空を飛び回るハリウッド映画の老舗ヒーローとは同姓同名で、地方スーパーマーケットの経営をしている。

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