第28話

終わりにしよう。


このまま、知らないふりをして終わりにしてしまおう。


彼だって嘘をついて会っていた私を軽蔑しているに違いない。


二度と会いたくないと思っているはずだもの。


あの店に行かなければいいんだ。


今日は金曜日。


今日を区切りに理央くんとのことは忘れよう。


どうせ終わりにするつもりだった。


できれば最後にもう一度会いたかったけれど……やっぱりダメだ。


彼だってあの店にはもう二度と来ない。


いい夢を見せてもらったと、そう思って潔く諦めよう。


定時に仕事を終えて少し時間を潰してから会社を出た。


金曜日の夜はいつもそうしていた。同僚達に見つかることは避けたかったし、心の準備が必要だったから。


嘘でメイクするにはいつも時間が必要だった。


それももう終わり。


これからは、定時に上がって真っ直ぐに家に帰る。


平日となんら変わりのない生活を送るのだ。


徐々に沈んでいく気持ちが減り込むほどにまで落ちきった時、路地裏に入る道に着いた。


いつもならこの道を折れて、あのバーの少し先にあるビルのトイレで変装をしてからバーに向かう。


でも今後、金曜日もこの道へ進むことはない。


後ろ髪引かれる思いでその路地裏の道を後にして先へ進んだ。


恵理菜に電話しようかな。


金曜日の夜に1人で過ごすなんて久しぶりで寂しすぎるもの。


バッグからスマホを取り出して恵理菜に◯INEを送る。


すぐに返ってきた恵理菜からのメッセージに溜息が落ちた。


こんな日に限って恵理菜と都合が合わないなんて。

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