第14話
それにしても……さっきは本当に驚いた。
彼が階違いの経理部を覗くなんて、しかも給湯室に来るなんて想像もしなかった。
部長のコーヒーの事を知っていたから、それ目当てで来たのはすぐに分かったけど、今後はそうそう来ることもないよね。
来られては困る。
だって、いくらバレるわけはないと思っても、それでももしかしたらという不安も確かにあって。
でも本当は金曜日の夜だけじゃなくて、もっと会いたい。顔を見ていたいとも思う。
勝手な言い分だ。
「山瀬さん、眉間に皺」
「え、?」
敷島さんが自分の眉間を指差して、小さく笑う。
慌ててその部分を手で隠して、みっともない顔をしていた事を謝っていた。
「謝らなくていいのに、可愛いなって思っただけだよ」
ぽろりとこぼれた言葉に私は驚いて、彼は自分の失言に気付いたのか、しまった!という顔をした。
同僚に、しかも男性に可愛いと言われることなど今までなかったから、どういう反応をしたらいいのか分からなかった。
こんなところがダメだなと思う。
社交辞令を真面目にとってしまう。
受け流すことができないなんて、情けないや。
「……社交辞令とか思ったでしょう?」
無言でいた私の顔をじっと見ていた敷島さんが小さく溜息をついた。
「あの……?」
「山瀬さんは言葉は少ないけど、他の女性より表情が豊かすぎるよ。そういうところを可愛いと思ってる」
真っ直ぐな目が私を見ているのが、逸らした視線の端でも分かった。
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