君の彼方

高間 哀和

僕らの居場所

「今日も誰1人欠けずに居るな、タオルもよし。これだけあれば食料も足りるよな」


高架下、一見ホームレスの集まりのような集団の一角、「お取りください」と書かれたダンボール看板の下に僕は物資を補充した。


「…おいeve(イブ)、俺への感謝は無しか?」


「Adam(アダム)、御曹司だか知らないが、君のことはまだ信用してないからな」


この偉そうな男はAdamという、もちろん本名ではないし、僕の名前もeveではない。僕の本名は矢島光(やしまひかる)という。


ここには研究所から逃げてきた妊娠可能な男が約50名、各々好きなように過ごしながらたまに物資を補給して暮らしていた。


僕が研究所を壊したというのもあり、なるべく積極的に補給をしていたが、正直この冬を越せるだけの物資は集まっていなかった。


そんな時、僕らに都合良く現れたのがAdamだ。こいつは僕らが妊娠可能な事、研究所から逃げてきた事、他にも沢山の情報と余るほどの物資を提供してきた。


Adam曰く、「お前を助けたいだけだ」そうだ。見ず知らずの相手にここまでするなんて怪しいのは分かるが、今はAdamを頼らないと生きていけない状況にあった。


「eve〜全員がお互いの名前知らないのやっぱり不便じゃねぇ?」


頬杖をついたAdamは芋の皮むきをしている光(ひかる)にだるそうに質問する


「不便じゃない。いざと言う時、仲間の居場所を特定されないようにする役割がある。誰かが捕まったら皆がバラバラに逃げる手筈だ。1人でも多くのevesが生き残るための合理的配慮だ」


「合理的配慮…ねぇ、お前は本当にそれ好きだよな」


「…君にそんな話をした覚えはないけど?」


「残念、俺は覚えてる。悲しいほどはっきりとな」


「だから……」


「っと、飯出来たぞ!じゃがいものスープだ、好きにとってけよー」


Adamはevesに声をかけたついでに光の話を無理やり遮った。スープをよそぎ、ボロボロの机に並べていく姿はいつの間にか板に付いていて、Adamがここに来てからしばらく経ったのだと言う事を実感させる。

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