カレの事情


――麻里亜達と行くって言ってた夏祭りなんだけど、実は長嶺達男子のグループも一緒に行くの。だからって何って事でもないんだけど、言ってなかったから言っておいた方がいいかなって、勝手に思っただけ。でも本当は先生と、明後日のお祭り一緒に行きたいな。



 夏休み中にある登校日の前日。



 彼女から、スマホアプリに届いたそのメッセージへの返事に迷った。



 彼女の気持ちは分かってる。



 何を言いたいのかも、何を思っているのかも。



 一緒に行きたいと言いながら、彼女は無理だとちゃんと理解している。



 無理な理由も、俺が断わる事も何もかも理解している。



 それでも言わずにはいられないくらい、一緒に行きたい気持ちがあるんだろう。



 普段俺に何かを要求してこない彼女がこのメッセージを送るのに、相当迷っただろう事は容易に想像出来る。



 彼女の年頃で彼氏に言える我儘を、俺は何ひとつ聞いてやれない。



 なのに彼女は愚痴ひとつ零さず、言いたい事の半分以上を黙って呑み込む。



 それが彼女にとって辛い事なのは分かってる。



 ただ分かっていても、どうしてやる事も出来ない。



 返信に、言い聞かせるような内容を書くのは簡単だった。



 教師と生徒って間柄だからそんな事は出来ないだろう――と。



 誰に見られるか分からない祭りには一緒に行けないだろう――と。



 悪いな、我慢してくれ――と。



 言うのは容易たやすい。



 ただそうは言いたくない。



 無理な理由を説明したくない。



 余り説明しすぎると、彼女が気付いてしまうんじゃないかと懸念する。



 この関係の本当の重みを。



 この関係の本当のリスクを。



 彼女が思っているほど甘くはない、俺達の関係の意味を。



――無理。



 結局一時間悩んだ挙句、彼女に返したメッセージには、たった二文字の言葉しか書く事が出来なかった。

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