イモータル 4
「なんだあれは。人見さん!」
少女の周りでは幾筋もの放電が起こり、破裂音と共にキナ臭い匂いが漂ってきていた。それと対峙する人見は、ゆっくり拳銃をそれに向ける。
金堂も、意を決して少女に向けたマシンガンの引き金を引いた。三発の弾丸はその足から脇腹に向けて飛んだが、体の手前一〇メートルで、一瞬緑に輝くと巨大な黄色い光球となって消滅する。その後には円錐形のガスが残るのみだった。
「なにを?」
目を見張る部下達に、人見は鋭く、引け、と命令し自らも脱兎の如く走り出す。
「なんですかありゃ! プラズマボールかよ。素敵インテリア要らねえんだけど」
並走する金堂には答えず、人見は目をくるくると動かした。
――あれは炎色反応だ。電磁場で弾を消した? なるほど、春野の言ってた科学ってのはこういうことか。奴の間合いに入れば、電子レンジみたいにチンされちゃうだろうな。
「金堂、車にC4あったか?」
「爆破の残りが少し」
「よし、持って来い」
瞬く間に百メートルほど距離を取った人見は、ゆっくりと歩いてくる少女をちらりと見ると、市役所のブロック塀へ蹴りを食らわせ崩す。それを抱えて、道の両脇に置き、金堂の持ってきたプラスチック爆薬をそれにくっ付けた。
「うわあ、凶悪。――でも、こんなトラップに掛かりますかね?」
「大丈夫。あれは見るからにバカだ。そして目的はただ一つ」
「なんですか?」
「あたしに抱きつくこと」
「えー……やられた復讐?」
「だろうな。オバケだから、わたしが間接的にでもやったことはお見通しだろう」
言い終わって人見は違和感をおぼえる。何かをしようと立ち上がった途端に目的を忘れてしまった時のような、じれる感覚が湧きあがった。
金堂は、信管に繋がるワイヤーを引っ張って権田達を伴いビルの影に隠れた。人見はビルの角に手をかけ、誘い込むように体を晒す。
金堂が小声で、抱きつかれたら? と質問してくる。
「人見の蒸し焼きが出来る。美味しいかも」
無表情で少女を睨み、上の空で答える人見に、金堂は顔を顰めた。
「勘弁してくださいよ」
「タイミングが大事だ。奴の範囲に入ったら多分お前の手元まで高圧電流が来るぞ。起爆したらスイッチ捨てろ」
「了解です」
「ほら、こっちだ嬢ちゃん! 人見はここだぞー!」
挑発する人見を見るでもなく、少女はトボトボと歩いて来る。
その姿を、荒い映像のように時にぼやけさせ、時に短距離をテレポートさせながら。真っすぐに人見に向かって近づいてくる。
不意にその目から青い炎が立ち上ると、真っ黒い瞳がエメラルドの輝きを放った。同時に髪の毛も一本一本が煙を上げ始め、徐々に白く変わってゆく。
しかしその目は悲しく路面に落ちたまま、荒れた唇を動かそうともしない。
――バケモンが、キッショ。
人見は頭の中で毒づく。
それに声が応答する。
――コレがバケモノであるならお前はなんだ?
人見は、ぎょっとして右肩が動いてしまうが、鼻から息を抜いて返答する。
――知らないよ。多分人間だ。
――笑わせる。そんな能力の人類がいるものか。思い出せ。お前は私と同じものだ。
――そうかよ。じゃあこの世界はわたしんだ。おまえみたいな出来損ないが這いずるな。
――これが世界? 出来損ないの見本市じゃないか。
――だから何だ。完璧など、この世界には必要ない。それは永遠の停止。無と等価でしかない。
――不合理な憎悪ばかりが渦巻く不完全な場。物質が蠢いて針の先ほどの可感界だけを見ては、何かを成したと空しい自己満足をし続ける悲しい存在を量産しているこんな世界で、お前は満足なの? ならば、相応の認識力さえあれば良い。それ以上は余分。合理という言葉を直視なさい。
――勝手なことをぬかせ! 感情も意思も込みで、この世は成り立ってるんだ。存在すらしない者が知ったようなことを。
――思い出したようね? 原因を作ったのはお前達よ。結論は唐突に、そして無慈悲にやってくる。大災害のように。そしてあなたは大切な感情とやらのために美月に滅ぼされなさい。
「今!」
人見が号令すると、爆薬は重い衝撃波をまき散らしながら炸裂する。左右に配置されたコンクリートブロックは爆発の力で無数の破片となり、少女に襲い掛かった。周りの電磁場は伝導率の低いコンクリート片には抗しきれず、凶暴なエネルギーはその体へと食い込む。
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