イモータル 3



 国崎は、車に乗り込みゆっくりとキーを捻った。脳裏に浮かぶのは、やはり昨日の光景だった。台所から微笑む琴美、耳に息がかかるほど寄り添った二人の間に生じる熱、ジャージを紙袋に詰め込むふくれっ面、車窓の外に目をやる姿。



 思考や感情がおかしいのはわかっていた。


 行ったところで、どうなるとも思えなかった。だが、自分の部屋でじっとしてることは無理だった。


 工場の産業用ロボットのように、無意識のまま作った即席麺は喉を通らず、スマホのエラーメッセージすら脳内で意味を成さず、テレビからの笑い声は聞くに堪えなかった。



 冷静な自分は、腹のそこから浮かび上がるあの少女のイメージによってかき消されてしまう。そしてその顔は絶え間なく琴美の笑顔に変化し続ける。



 ――失ってしまった! 全部!



 目を瞑って、無言の絶叫をあげると、押し留められない映像が頭の中を流れる。毒蛇の威嚇音のような音と共に、琴美を千切り飛ばした銃弾を呪い、それを指示した人見を憎む。他には何も考えられなかった。


 月光に照らされ後ろへと流れ行く濡れたアスファルトに、首だけになった琴美の笑顔が浮かび上がる。



「それでいいよ。あなたもあたしと同じくさ。やりたいことをやっちゃえばいいのよ。どうせ同じなんだもの。生きてようが死んでようが」



――そうだな。あの子も言ってた。『おしまいのはじまり』だって。


――でも、君のおしまいは、もうはじまりすらしない……



 湧きあがるイメージから、唐突に色が抜けてゆく。


 事故現場のあのシーンから、オレンジの街灯の光が抜けていった。そこに立っていたはずの少女の姿が溶け落ち、消え去ってしまう。


 何もない空中に、ジャージを着せる真似をしている琴美。誰もいない後ろの席に話しかけてる自分。誰も居ないちゃぶ台にいそいそとココアを運ぶ琴美……。


 これが現実だったのかと気がつくが、自分でも驚くほどにどうでもいいことだと思えた。琴美がもう居ない事、それだけが胸の中に充満する。



 国崎は暗い道を見据え、銃撃の音がする方向へと車を走らせた。

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