マリオネット 4
照明が落ち準備中の札が下がった「フラン」のドア窓を雨粒が叩く。
自然がその力を誇示するかの如く、無限に落ち続ける雨粒をヘッドライトのビームがくっきりと浮かび上がらせた。
グレーのミニバン三台は静かに小さな駐車場へ入り、十二人の男達は、豪雨の中無言で下車すると、フランの勝手口に吸い込まれてゆく。
最後に降りた小太りの中年は、空を見上げる。
「風の後には、やっぱ雨が降るか……」
広間で腕立てをしていた金堂も、最後に入って来る小太りに敬礼すると、列に加わる。店から降りてきた権田が最後に列に加わると、薄い髪を撫でつけながら小太りが前に進み出て敬礼した。
「さーて、時機到来、っていう感じか。潜入していた金堂、権田両名はご苦労だったな。もう少しで彼女の所に帰れるぞ」
ははっと笑いが漏れ、二人は同時に頭を掻く。
「知っての通り、現政権に楯突き、タカ派を気取ってマスコミを煽り、周辺国の不評を買っている原田猛を亡き者とし、国家の安定を図る。加えて、不法銃器その他の流通を司る亡霊、土居家勢力の壊滅。この二つを本日作戦の目的とする。――奴らも色気を出して手を結ぶなんてことしなければもう少し長生きできたんだろうか? はてさて」
再び笑い声が上がる。
厳しい訓練や職務と、こういった瞬間との緩急は絶妙であり、これこそ上田と言う人物の力の源なのだ、と金堂は静かに頷いた。
「1945、首塚鎮守の森地下倉庫へ突入。これを制圧。撤収の後、日付を跨いだ翌0025、原田の移動中車両を制圧。猛を殺害する。これらをアルファ作戦、及びベータ作戦と呼称する。アルファ出動は1915。それまで装備点検及び休憩時間とする。外出禁止、おやつの持ち込みは可。まだの者は飯、食っとけよ。以上」
命令を終えた上田は、そのまま武器の入ったハードケースへと向かう。金堂もそれに従いサブマシンガンを一つ取り上げた。
「こいつが最高にトリガータッチが良いですよ、大尉」
受け取った上田は、弾倉を確認し、ボルトを引くと部屋の奥を狙った。ゆっくり引き金を引いて、バネが戻るカチっという音を聞くと、それを金堂に渡す。
「なるほど。では、これはお前が使え」
「でも、せっかく選んだんですよ」
「先頭を切って敵に対峙するのはお前だ。最高の武器はお前が使え」
金堂は思い切り口を横に引いて顔をほころばすと、機敏に敬礼する。
「その代わり、怪我をするなよ。少尉」
上田も微笑みを返し、拳を金堂の分厚い胸板の突きたてると、Tシャツに書かれた文字に気がつき大笑いを始める。
「『無敵』か、こりゃあいい。みんなこれを見てみろ! 今宵の盾は少尉だ」
笑いの渦の中、飾り気の無い壁掛け時計は午後六時四十二分を指した。
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