第38話:花火オブ・ザ・デッド

 無人島でシャークキョンシーと言うアホだけど危険な陰謀を潰した俺達。

 正直、悪の組織のトンチキ加減をなめてた。


 「うん、夏だからって色々盛り込むのはお腹一杯だよ」


 どうにか敵の起こしたふざけた事件を解決して帰ってきた俺達は、屋敷の地下基地のラウンジで寛いでいた。


 「何でしょうねえ、悪の組織の方が楽しそうに悪さしてますね?」

 「クーネさん、くすぐったいですわ♪」

 「ヴィクトリア、あんたまた筋肉増えてない?」

「ちょっとお待ちなさい、私は太ってはおりませんわ!」

「筋肉がガッチリ太ってるよ! 前腕、ぶっとい、超合金かい!」

「肩にランチャー乗せて、仕上がっておりますわ!」

「バンプアップで、メジャーが千切れた!」


 クーネさんはヴィクトリアさんの体にメジャーを巻き付けて採寸をしていた。

だが、ヴィクトリアさんが体に力を入れるとメジャーが千切れる。


 「お坊ちゃま、御子神神社の盆踊り大会のお知らせでちゅよ♪」

 「うん、日本の夏だね♪」


 俺の膝の上に赤い狼の姿で寝そべるアネットさんが口に咥えたチラシを俺に見せる。

 盆踊り、花火、夏だねえ。

 と言うか、会場がクラスメートの家だよ。


 「縁日で屋台も出るそうです~♪」


 マミーラさんがくねくねと体をくねらせて小躍りする。

それ、呪いの踊りじゃね?


 「皆で浴衣を着て遊びに行くべく、クーネ先輩が採寸中ですね♪」


 メーアさんが笑顔だ。


 「お坊ちゃま、糸を出すのに魔力供給をお願いします」

 「ああ、わかった」


 採寸を終えたクーネさんが俺に頼んで来た。

 夏と言えば水着と並ぶのは浴衣。

 裁縫メイドを自称するクーネさんが、全員分の浴衣を作ると張り切っていた。


 「ああ、何か最近出かけるたびに事件が起きてるから日常が落ち着くぜ♪」


 俺は今、日常の平穏な時間の尊さを再確認していた。

 守りたい、この穏やかな時間。

 愛する人が笑ってる、かけがえのない毎日ってのはこういう時間なんだな。

 自分達含めて、人々がこういう穏やかな時間を過ごせるように世界を守る。

 それがヒーローの使命、この暖かな物を守りたい。


 「主、心が燃えてますね♪」

 「ああ、皆が俺の心をあっためてくれてるって言うのがわかったみたいな?」


 照れくさいが言葉にしないとな。


 「はう! お坊ちゃまのデレが!」

 「ちょ、私も胸がときめきズキュン!」

 「はわわ~~~、成仏しそうです~♪」

 「何ですかもう、私も大好きですよ~♪」

 「ワンワン、大好きでちゅ♪」

 「主、私の心に火を付けましたね♪」


 皆が照れて、基地内の空気が春になった。


 「尊いですわ~♪」

 「うん、心が春みたいに温か~い♪」

 「ここが、ここが永遠の国ですか♪」

 「これが尊いという気持ち」

 「ああ、何か天使の奴がお迎えに来そうでちゅ♪」

 「いや、皆が鼻血出して倒れた~~!」


 良い雰囲気が一気に台無しになったよ。


 「……晴間君、またメイドさんが増えたんだね?」

 「ああ、色々冒険した結果でさ」

 「で、角が生えてるのはどういう事かな?」

 「ちょ、俺今人間に変身してるのに見えるのかよ!」


 メーアさんとリータさんをお供に連れて神社へと赴いた俺達。

 境内の社殿前を掃除していた御子神さんと出会うなり、人間化を見ぬかれた。


 「初めまして御子神様、勇太様にお仕えしておりますメーアと申します♪」

 「リータと申します、宜しくお願いいたします」

 「初めまして、ドラゴンと火の精さんですか?」


 御子神さんが二人の正体を言い当てた。


 「宿題はきちんとしてるの? 君と武君は心配なんだけど?」

 「ああ、仕事とかの合間にやってる」

 「なら、大丈夫かな? 宿題見せてとか駄目だからね?」

 「ああ、何かそう言う普通の会話がありがたい」

 「え、本当に君はどうしたの?」

 「いや、魔族になっただけだよ♪ 盆踊りは遊びに行かせてもらうぜ」

 「トラブルは起こさないでね?」

 「善処します、悪の組織に言ってくれよ?」


  御子神さんに釘を刺された。


 「楽しみですねえ、盆踊り♪」

 「わたあめが食べたいです、主♪」

 「ああ、盆踊りも楽しみだしかき氷とかも良いな♪」


 メーアさん達に答える、事件とか起きずに平和な盆踊りになれば良いな。

 俺達は一旦屋敷に帰り、夕食などを済ませてから火の用心夜回りへと出かけた。


 「火の用心~!」

 「火の用心でございます~!」

 「マッチ一本、火事の元~♪」


 リータさんが拍子木を鳴らす、炎の魔神が言うと説得力があるな。

 そして、水属性のメーアさんがいるから万が一の時の消火は可能だ。


 「勇太様、火打石とか鳴らしたくないですか♪」

 「いや、鳴らすなよ!」

 「時代劇みたいで楽しいですね♪」

 「メーアさん、日本の時代劇に嵌り過ぎだよ」

 「日本に馴染みすぎでございますね?」


 家のドラゴンメイドは日本通、祖母ちゃんの影響かな?

 アネットさん達四人は屋敷で浴衣の採寸の為、居残り。

 ご近所で全員集合だと、戦力が過剰すぎるから丁度いいかな?


 「ヒャハ~! 芸術は爆発だよ~~♪」


 突如空から箒に乗った赤いローブの魔女が現れて、六尺玉を投下して行く。

 六尺玉は地上に落ちる前に爆発し、街に火の粉が降りそそぐ!


 「くそ! 今度はハーベストか!」

 「出番ですね、親分! もとい、あんた♪」

 「出陣でございます!」

 「魔界チェンジだ!」


 俺達三人は変身し、燃える街へと駆け出す。


 俺はイフリートマカイザー、メーアさんはアイスドラグネットとなる。


 「よし、炎よ集いて力と化せ! ファイヤーイート!」

 「消火はお任せ、フリーズインパルス!」


 俺は炎を吸い込み消火。

 アイスドラグネットは手から冷気のブレスを出して火の着いた建物を消火する。

 敵の所業は許せないが、まずは町や人々の命を救う事が優先だ。

俺達の初動での消火活動の間に、消防と救急車が来たので引き継ぐ。


「全く、明日は盆踊りだってのに!」

「花火で悪さたあ、許せませんね!」

『火の本当の恐さを教えてやります』


俺達は変身したまま、犯人である魔女を追いかける。

敵の邪悪な魔力は悪臭の如く漂うから、見逃しはしない!


「いました、山の方です!」

「よし、ドラグネットは俺を乗せて飛んでくれ!」

「あいよ、合点承知♪」


ジャンプして龍になったドラグネットの頭に乗り、魔女を追う。


「ここは霊園か?」

「マイロード、敵に異空間を展開されましたよ!」

「よし、暴れても現実に被害が出ない♪」


敵より、被害を出した時の訴状や請求書の方が何倍も恐い!


紫色の空の下の西洋墓地、墓標に腰かけて待ち受けていたのは赤いローブの魔女。

顔はなんだかゾンビっぽい、美人の類いだろうが魔族でないから魅力を感じない。


「ヒヒヒ、来たね魔族ども♪」

「待ち構えていたつもりだろうが、貴様は自分の死に場所を用意しただけだ!」

「私達ペアに倒されなさい!」

「ハナビーナ様の花火ショーの開幕だよ、ヒャッハーーーッ♪」


魔女が花火玉を空に投げれば、爆発を合図に地面が蠢きゾンビ達が出て来た!


「キョンシーの次はゾンビかよ!」

「また、アンデッドですか!」

「頼りにしてるぞ、ドラグネット♪」

「はい、おまかせあれ!」


襲い来るゾンビ軍団、どいつも走る奴ばかりを相手に俺は炎の拳でドラグネットは刀で冷気の斬撃と大立ち回りを繰り広げる。


「ヒャッハー、デカイ花火を上げるよ!」

「マイロード、お願いします!」

「任せろ、マカイザーキック!」


俺はドラグネットに尻尾で空に打ち上げて貰い、必殺キックで魔女へと花火玉を蹴り返す!

「ヒーッ! 花火がこっちに!」


魔女は自分の花火を受けて爆死した。

空間が元に戻り、戦闘が片付いた事を確認する。


「汚い花火でしたね」

「明日は皆で楽しい花火を見よう♪」


俺はドラグネットにそう告げて、皆が待つ屋敷へと二人で飛んで帰った。










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