ふたつのいのち。

こうの なぎさ

第1話

16歳。


初めて自分(身体)を売った。


握りしめたお金で

あなたのお店に行く。


今日も変わらない笑顔で

よろこんでくれた。


17歳


相変わらず自分を売る日々。


信じられるのはお金だけ。

今の自分に信じられるものは

お金とあの人。


星も見えない東京の夜。


きっとこの頃から

思っていた。


18歳


うそつき!


そう言って支払いを済ませて

外に出る。


「ごめん!あの子最近すごくしつこいんだ

俺も困ってるんだよ」


「聴きたくない!!!」


あの人が私以外の人と

枕営業していたのを知った。


否定しなかった。


あの人に会うために

自分を売ってきたけど

それも、もう、意味が無い。


19歳


家もない、お金もない。

繋がらない携帯。


新宿の夜はなんでこうも

明るいのか。


あの人が生きがいだった。


あの人のためなら

汚いこともできた。


もうそんなことしなくていいんだ。


カンカンカンカン


ビルにたつ、私。


目を閉じる。


空気が冷たい。


ふわっと、風が吹いた。


私の涙と、ともに

落ちていった。



死んでも耳は聞こえてるらしい。

そんなの嘘だ。

何も聞こえない。


私は屋上から落ちた。


いま、隣にいるのは

亡くなったはずの叔母。


「ういちゃん、やっと会えたねえ」


「!」


その瞬間、目が覚めた。

体が動かない。


辺りを見回して確認したら

病院だ。


わたしは死ねなかった。


「目がさめました?お子さんも元気ですよ」


お子さん?


「私。妊娠してるんですか」


「いまちょっと、先生がきて

説明してくれますからねえ」


助かったふたつの命。


涙が止まらなかった。


生きてみよう。


今度はお腹の子と一緒に。

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