魔力タンクと蔑まれた魔法使い、魔力で強くなる魔剣を拾う
嘘乃 真
第1話 魔剣
「おい、そんなやつ置いてけ! 脱出できなくなるぞ!」
遠くで仲間たちの声が聞こえる。ただ、体が動かない。
さっきダンジョン内のトラップが発動した時、魔力供給に専念していたから自分を守ることまで意識がいかなかった。
結果、致命的なダメージを受け完全に動けなくなってしまった。
※
世界でも五本の指に入る王国付き一流冒険者ギルド『クレスト』。そのダンジョン攻略に、俺は魔力供給役として参加していた。
魔法が全く使えない代わりに無尽蔵に魔力を生成できる俺は、宝の持ち腐れと言われるが唯一無二の存在だった。
単体では何の役にも立たないが、サポート役としては有用で。だからクレストのような有名ギルドにも、同伴させてもらえることになったのだ。
今回は辺境に新たに見つかったダンジョンの攻略。
事前情報としてはかなりの深度で。中にはとてつもない宝が眠っている可能性もあるということだった。
だが一流冒険者の集まりである『クレスト』のメンバーを以てしても、ダンジョン攻略は熾烈をきわめた。自慢に聞こえるかもしれないが、俺から無尽蔵に供給される魔力がなければ最深部までこれなかったとさえ思う。
それだっていうのに――。
「宝ってのが、これかよ……」
苦労してたどり着いた俺たちをあざ笑うかのように、最深部には錆びた剣が一本突き刺さっているだけだった。
ここからは撤退を考えなければならないと言うのに、さっきのトラップで怪我を負い魔力が上手く生成できない。こうなると、俺はもうただの足手まといでしかない。
「悪いなフリッツ、恨むなよ」
そう言い残し、最後まで俺に付き添っていた仲間が離れていく。
理解している。一人でも多く無事に脱出するためには足手まといは切り捨てなければならない。だけど――。
「ここで、終わりか……」
思えばままならない人生だった。
一流の剣士に憧れていたが、俺に与えられたのは魔法使いの適正だった。
しかも魔法すらまともに使えず、出来損ないとして蔑まれ続けた。それでも魔力タンクという生き方を見つけ、一生懸命やってきたんだ。それなのに――。
「こんなのって、ねぇよな……」
最後には仲間に切り捨てられ、誰にも看取られることなく錆びた剣の前で一生を終える。神という存在がいるとしたら、どうして俺に過酷な運命を与えたのだろうか。
剣士になれなかった俺には、錆びた剣がお似合い――そういうことか?
「いいじゃねぇか」
どうせ死ぬなら、最後くらいは剣士として戦ってやる。錆びた剣がお似合いってなら、それで戦ってやろう。
地面をみっともなく這いながら、剣が奉られた台座へと近づく。
錆びた剣なのにこんな仰々しく置かれやがって。お前のせいだからな、こんな目にあってんのも。そう考えながら剣の柄を掴んだ。すると――。
『ふーん。アンタ、なかなかいい魔力をもってるわね』
不思議な声が聞こえた。若い女性の声に聞こえるが、もちろん周囲には誰もいない。一体どこから……?
『でも状況が最悪じゃない。それに魔力の奔流が尽きかけてる』
「誰、だ……?」
『アタシ? アタシはティルヴィング。アンタが握っているその剣よ』
「……魔剣?」
おとぎ話で聞いたことがある。かつて世界には魂を持った剣――魔剣と呼ばれるものが存在していたという話を。
『そういうヤツもいるけど、アタシはその呼び方キライよ』
魔剣の声色が、不機嫌なものに変わった。呼び方一つで拗ねるなんて、魔剣ってやつは思ったよりも人間らしいんだなと可笑しくなる。
「じゃあ、ティルならどうだ?」
『……ま、ニンゲンが考えたにしちゃ悪くないわね』
どうやらお気に召して頂いたらしい。
「ものは相談なんだが、ティル。力を貸してくれないか? いま絶対絶命のピンチなんだ」
『イヤよめんどくさい。と言いたいところだけど、アンタなかなか面白い魔力を持ってるわね。後で十分に魔力を吸わせてくれるなら力を貸してあげてもいいわよ』
「……そいつは助かる」
ちょうど魔物がわらわらと集まってきたところだ。
いくら魔剣といえどこの状況を打破できるとは思えないが、冥土の土産に威力がどんなものか見ておくのも悪くないだろう。
それに、本人(剣?)も自信満々のようだし、奇跡が起こればもしかしたら少し生きながらえるかもしれない。
『じゃあちょっと本気出すから、アンタしっかり握っときなさいよ。ふっとばされてもしらないわよ?』
「わかったよ。俺は振るだけいいのか?」
『そんなヘロヘロで魔力は使えないでしょ? 特別に前の使い手が残していった魔力を開放してあげるから、アンタは振るだけに集中しなさい』
「……了解」
『いくわよ!』
ティルがそう叫んだ瞬間、錆びたと思っていた剣が赤色に輝きだした。俺が無我夢中でそれを振り下ろすと、その光剣は周囲の魔物をダンジョンもろとも吹き飛ばしたのだった――。
………………
…………
……。
「……まさかダンジョンもろとも吹き飛ばすとは思わなかった」
『何よ悪い? アンタがどうにかしてっていったんじゃない』
「ま、そうだんだけどさ」
ダンジョンが消し飛んだ後、俺は何が起こったのか分からず、しばらく呆然と立ち尽くしていた。だが、やがてティルに急かされようやく歩き出して今に至る。
外から見ると、まるで大災害が起こった跡地のようにダンジョンは綺麗に消失していた。おそらく最深部から地上部の間にあった地面が、全てなくなったのだろう。
「そういえば、ダンジョンの中に仲間がいたんだけど……」
『そんなの知らないわよ。ま、アタシが切った射線上にいなかったなら助かったんじゃないの? そんなことよりアンタ、自分の心配しなさい』
「そう、だな」
ダンジョンから脱出したはいいけど、ここから近くの街か村まで果たしてたどり着けるかどうか……。
「でも、心配してくれくれるんだな」
『勘違いしないでよ? アタシはまだあんたから報酬をもらってないんだから』
「はは、そうだな」
そっけないけど、ティルのその言葉は俺を切り捨てていった仲間たちの言葉よりも温かく聞こえた。
「それにしても、また見事に錆びたな」
『それも勘違い。アタシは錆びない。そういう風に作られているもの。ただ魔力がないと力が出ないだけ』
「そんなもんか」
今は俺の杖代わりになっているティルは、さっきの輝きが嘘のように錆びていた。
『だから魔力があればまたさっきみたいな力を発揮できる。ま、アンタの魔力次第だけどね。杖代わりにするなんて、本来もってのほかよ!』
「それについては本当に申し訳ない。でも報酬は期待しててくれ。魔力量だけなら誰にも負けない自信がある」
なんせ無尽蔵に生成できるんだ。
『ならいいわ。そういえば、アンタ名前は?』
「フリッツ。フリッツ・クーベル」
『じゃあフリッツ。アンタいずれ世界で最強になれるわよ。もちろんアタシを握っていれば、の話だけど』
この世界で最強か、ずいぶん大きく出たもんだ。でもダンジョンを斬り飛ばした威力――あれはまぎれもなく本物だ。
「なら最強にむけて、とりあえず生き残るために歩くか」
『しゃべってないでキリキリ歩きなさい! アンタが倒れるとアタシもここで共倒れなんだからね!』
「はいはい」
こうして俺は口の悪い魔剣と出会うことになった。
世界最強への道は、まず生きて人のいるところに行き、治療を受けるところから始めなければならない。それでも――。
「さっきまで絶望してた身にとっちゃ、この上ない幸運だな」
さきほど恨んだ神に感謝しながら、俺は目の前に広がる草原を歩き始めた。
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