第40話

刹鬼side



腕の中の愛しい愛しい存在を起こさぬようにソッと抱きしめる。



キャッキャッと真鬼と楽しそうに話していた丁はいつの間にか眠っていた。



寄り添うように真鬼と一緒に。



俺は丁を抱き上げ、多鬼が真鬼を抱き上げる。



日の出を見る前に寝てしまったか。



それほど今回は疲れたということ。




「鍾鬼」



「うん?なんだい、兄上」



「今日はありがとな。そしてお前とまたこうして話せること嬉しく思う」




鍾鬼は俺のことを嫌いなんだと思っていた。



昔は、兄上兄上と後ろを付いて来てはニコニコ笑ってくれていた。



けれどいつの間にか離れていった。


話しもしなくなった。



悲しくて寂しかったが、丁が居てくれたから乗り越えられた。




「……ごめん。兄上の一番が“それ”になったのが悔しくて俺は要らないんだって……」



「そんなことはない」



「うん。だから……また昔みたいに……」




そっぽを向きながらそんなことを言ってくる鍾鬼。



いつまで経っても可愛い弟だ。




「ああ、お前が隣に立ってくれたら、こんなに心強いことはない」



「……任せてよ。全力で兄上を支える」



「ありがとう」




笑うと、鍾鬼も笑ってくれる。



それは昔のままの笑顔だった。




「じゃあ、俺も砂鬼連れて帰るから」



「ああ、ゆっくり休め」



「またね、兄上」




ヒラヒラ手を振って鍾鬼が帰っていく。




「俺達も帰るか、多鬼」



「あい……。さすがに疲れました」




そう言って、歩き出そうとした時




「何を笑ってるのかな?うちのお嫁さんは」



「……笑ってませんわ」



「起きてたのか」



「今、……起きました」



「眠ってていいぞ」




オデコにキスをすると、擽ったそうに笑う丁。



なんとも可愛らしい。


キスをしようとするも



「鍾鬼様」



「うん?」



「良かったですね、鍾鬼様と仲直り出来て」




丁はそう言うと力が抜けたように微笑み、また眠りについた。



愛しい愛しい妻。




「お休み、俺の丁」



「……っっ」



「アハハッ」



「……奥様」




寝ながら、デヘヘッと笑う丁に、俺も声をあげて笑った。




第1話[完]

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