第37話

愛しい御方の声が間近でしたと思ったら、大きくて温かな身体に抱きすくめられた。



耳に心地良い心臓の音。


嗅ぎ慣れた香の匂い。




「刹鬼様……」




どうして……




「すまない、遅くなって」



「いえ、いえ」




わたくしは首を振り、刹鬼様を見上げる。



どうして、来たのですか。



貴方様には貴方様にしか出来ないお仕事が。




「妻が馬鹿な真似をしようとしているのだ。止めるのが夫の役目だろう?」



「馬鹿な真似では……」




わたくしには責任が……




「刹鬼様ぁ!!」




アンジェラが刹鬼様に近付く。




けれどそれを、わたくしを抱きしめたまま躱す刹鬼様。




「ココは鬼ヶ島だ。我らの地で、貴公らは招かれざる客。こうなることも覚悟の上で来ているのではないのか?」




冷めたとても冷たい烏玉色の瞳がアンジェラを射抜く。




「それはっ、あたしは貴方に会い」



「望んでいない。俺の妻は、俺が愛しているのは丁だけだ」



「刹鬼様……」




デヘッと笑いそうになるのをなんとか堪えます。



今は断じてそんな雰囲気ではないのですから。




「それに、気づいていないだろうから言うが、今までの貴公らが無事だったのは丁が相手をしていたからだ」




刹鬼様、気付いて……




「他の鬼達から貴公らを守り、いつもきちんと帰れるようにしていたんだ」



「……え?」




アンジェラがビックリした様子でこちらを見てきます。



男の天使の方は当に気付いていたのでしょうね。




「勘違いしないでください。全ては刹鬼様のためです」




鬼ヶ島と天界が争うことがないように。

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