ころしにきました
「ん、そろそろおきろ」
朝。日の出と共に耳元で
まだ重い
ちょうど下腹部に跨る恰好で服は着ていない。
鼻先が触れ合いそうなくらいの距離で、吸い込まれそうな紅い瞳がこちらを妖しげに見下ろしている。
肩まで伸びた黄金色の髪が重力に従い僕の頬を掠めているのが少しくすぐったい……。
「……?」
つまり要約すると。
僕の頭がおかしくなっていないのであれば、朝起きたら謎の金髪全裸美少女に馬乗りにされている……ということになる。
「ふむ」
……よし、整理しよう。
まず僕はどこにでもいる平凡な高校生。結婚はおろか恋人もいない。
ちょうど半年前に発売された『エコ・オンライン』にどっぷりのゲーマーで、最近は寝る間も惜しんで生産職に勤しんでいた。
悲しいかな、フレンドと呼べる者はほとんどおらず基本的にぼっちプレイを信条としている……。
こんな僕に女の子、ましてや幼い少女と会う予定も隙もどこにも無い。
つまり。
「……ゲームのやりすぎで頭おかしくなったかぁ」
「ごはん」
納得できた僕は優しく少女(幻覚)の肩を押し退け、ベッドから起き上がる。
何をうっかりしてたのか服は全て脱げ落ち全裸だった。
危ない危ない……この女の子が幻覚じゃなかったら狭い寝室に全裸の男と女の子。即牢獄行きの光景だ。
幻覚で良かった~!
「はらぺこ、です」
そう言う女の子の手には僕のパンツが握られていた。
まあ、そういうこともあるよね。
パンツのことは忘れ、シャツだけ着用した半裸姿で顔を洗いに向かう。
途中、部屋の窓が大きく割れているのが目に入った。まあ幻覚かな。
「きいてるですか」
後ろから付いてきた少女がくいと服の裾を引っ張る。質量を持った幻覚のようだ。
「やめなさい、伸びちゃうでしょー」と優しくその手を引き剝がすと、少女は不満そうに首を傾げた。
「ご・は・ん」
幻聴が圧を増して聴こえてくる。
ああ、そういや朝ごはんもまだか……。
冷蔵庫から卵を取り、火にかけて目玉焼きを作る。もちろんベーコンも忘れちゃいけない。
買い溜めておいたパンの端くれを切り落としたら目玉焼きを載せ、ゴキゲンな朝食の完成だ。
「それじゃあいただきま――」
ふと、きゅるる……とお腹の鳴る音が聞こえた。
見れば少女の幻覚がお腹を抑え恨めしそうに僕の朝食を眺めている。
「……」
いや、まさかね。
何と無しにパンを差し出してみる。すると、ぱぁっと少女の表情が明るくなった。
「あむ」
そして僕の手越しにむしゃむしゃと咀嚼し始める。
僕はただそれをぼーっと眺めていた。不思議だなぁ、どうして幻覚が食事を取るんだろう……って。
「ふむ」
少女が夢中になっている間、なるべくそーっと静かにパンから手を離しゆっくりと後ずさる。
もしもだ。
もし、これが僕の幻覚妄想の類ではないのだとしたら……。
全裸の少女、一人暮らしの男性。朝同じ屋根の下ベッドで目覚める――
「……」
みしみし、と鳴る古い木造の床が憎い。でも幸いに家が狭いお陰で、戸口まではそう遠くない。
よしあと一歩、よし届いた――といった具合で目的地へ到達。
いよいよ逃走を試みたところで「まつです」……背後から声が掛かり振り返ってしまう。
「ごはん、ありがとうございます。……でも、それとこれとはべつです」
そう言って少女が向けたのはスマートフォン。
その画面には裸で寝転がる僕と、その隣で無表情でピースする同じく服を着ていない少女の画像が表示されていた。
……え?
「せきにん、とるですよ」
頭が真っ白になる。知らない、僕絶対こんな娘知らないって!
高校生として享受すべき青春の夏休みをレイド用装備の生産に捧げてきた僕に、まさか女の子と朝チュンする日が来るはずもないだろ!
「ええと、僕は君の名前すら知らないし、そもそも不法侵入じゃ……」
「はあ」
こちらが狼狽えているのをいいことに、少女はどんどん距離を詰めてくる。
「いいですか。愛のまえにはガラスの一枚や二枚、ささいなことです」
「いや割ったのあんたかよ!」
そりゃ幻覚じゃない時点でそうだろうとは思ったけどさ!
しかし少女は全く動じた様子もなく、また一つ「はぁ」と静かにため息をつく。
「まどろっこしいですね。すなおに認めてくれたら楽だったのに……」
少女はそう言うと玄関前に掛けてあったカーディガンを羽織り、ようやっと裸ではなくなる(それでもすごい恰好になるが)。
「ふむう。しかたないです、言質をとって容疑をかんぺきにしたかったのですが……これでも十分脅せるでしょうし」
……げ、言質?
この子……何言ってるんだ?
「エコ・オンライン。あなたはそのプレイヤーですね」
「そうだけど……」
「わたしは依頼されてきたですよ」
すると少女はピシッと人差し指を立たせて。
その先を僕に突き立てたまま言い放った。
「あなた……いえ、『
それが僕と謎の美少女との。
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