響く雨音、その音色は空へと溶ける
クロスケ
第1話 雨の日の出会い
「いいよ、君がしたいなら」
学校の屋上。夕陽に照らされた彼女はとても綺麗だった。
優しく頬を撫でる風、彼女の上気した頬。
今にも張り裂けそうな位に激しく鼓動する俺の心臓。
その全てがいつもと違って見えた。
俺は意を決して彼女の肩に両手を置いた。
彼女が静かに目を閉じ、僅かに唇を前に突き出す。俺はそんな彼女の唇に自身の唇を近付け、そして──。
「んっ……」
高校三年生の春、俺は彼女と一つになった。
◆
俺が彼女と初めて出会ったのは、高校の入学式の当日。天気は不運にも雨だった。
新品の制服を汚さないようにと気を付けながら学校へ向かう途中、建物の軒下で雨宿りしていた彼女を見つけたのが始まり。
彼女は雨空を静かに見上げていた。
少し明るめの茶髪、思わず見惚れてしまう程に整った顔立ち。紺のブレザーの下に着ているワイシャツは僅かに透けている。
そんな姿に気付けば俺は急いで鞄からタオルを取り出し、彼女に差し出していた。
「大丈夫?」
自分でも不思議な事に、そんな言葉が自然と口から出た。彼女は少し驚いた様子を見せた。
だが、それも一瞬。同じ学校の制服を着ている事に安心したのか、小さく微笑んだ。
「うん、大丈夫。気に掛けてくれてありがと」
「傘、持ってないの?」
言った瞬間に「軽いなぁ、ナンパかよ」と自分で自分に突っ込みたくなる衝動に駆られた。だがしかし、一度外に出した言葉は戻せない。
俺は精一杯のポーカーフェイスを気取り、彼女の反応を待った。
「持ってるんだけど、さっきの強風で壊れちゃった」
建物の隅に立て掛けられたビニール傘。開こうとすると、骨組みの部分が何本か折れていてマトモに開けなかった。
「そうだ! 良かったらこの傘、使ってよ」
学校までは全力で走れば十分あれば到着できる。学校に着く頃にはずぶ濡れになっているだろうが、女の子を助けたと思えば気分は悪くない。
そう思いながら彼女に紺色の傘を差し出すが、彼女は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていた。
「じゃあさ、同じ傘で一緒に……行く?」
もはや自分で自分が制御できる状態では無かった。自分史上、最悪の黒歴史を現在進行中で進んでいると言う確かな感覚。
穴があったら入りたい、そんな心境だった。
「うん、ありがと。じゃあ、お言葉に甘えても……良い?」
そう言って彼女は照れた素振りを見せながら、遠慮気味に傘の中へと入って来た。
響く雨音、その音色は空へと溶ける クロスケ @kurosuket
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