第8話 呪祓のレースの行く先



「この人は……そうね、簡単なレース一枚で解決ね」

 国王のアム、そして前王太子の礼竜とアナ。

 それに加えて前国王の双子の母が居た。


 国民に雪鈴のレースを配る相談である。


 呪祓のレースがあれば救える国民がいる。よって、各地に置いてある投書箱に欲しいという要望を入れた国民の中から、レースを配る相手を決めているのだ。


「この人は……呪いじゃないね……」

 礼竜は文を見ながら言う。母親が急に意地の悪いことばかりするようになったとある。

「多分認知症だと思うよ。医者を送ろう」


 普段雪鈴と一緒にいるだけあって、礼竜が一番的確だ。しかし、礼竜としては、義従兄いとこのキョイがいてくれればと思ってならない。


 彼は、故郷を放置できないと、去っていった。故郷の墓守になると言い残して。


 雪鈴のレースにも、色々ある。比較的簡単に織れるものから、礼竜の背中の悲願花ひがんばなと同じ手の込んだものまで。


 呪いの深さによって分配される。悲願花のレースのストックは二枚あるが、未だにこれが必要なほど呪いの深いものは現れていない。


 また、残念ながら病気はどうしようもない。悲痛な病気を訴える文も多いが、医者を送るしかない。

 予見の知で、助からないと分かっていても。


 協議が終わった。雪鈴のレースは数枚残った。これは、次のために取っておく。


「そういえば、ミイちゃんは?」


「王太子教育が忙しすぎて、レースどころじゃないよ……。それに……」

 礼竜は、海藍音にグルシャが基礎を教えた時のことを思い出す。

「多分、レースはすごく苦手だと思う……」


 できれば、無理はさせないでほしいのだが……


「でも、魔力織りが試せるのはミイちゃんだけよ」

 アムが言う。


 魔力織りとは、魔力でレースメーカーの動きを再現し、簡単に短時間でレースを織る方法である。

 世間に安く出回っている出来のいいレースは大抵魔力織りだ。


 雪鈴の呪祓のレースも魔力織りで量産できないか試したのだが、駄目だった。礼竜ならばと、一生懸命雪鈴のボビンの動きを真似て礼竜が試したが、それも駄目だった。


 ところが、海藍音は呪祓の性質を持ち、父親並みの魔力を持っている。

 海藍音ならば……と、思うのも仕方ないことだ。


「まずは、花一輪。それでいいから」

 それだけで、呪祓の性質を持つ海藍音の魔力織りが効果あるか分かる。

 だが、雪鈴の花一輪は、かなり難しい。


 海藍音に無理はさせたくないというのが、父心だった。



◆◇◆◇◆


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