ニセモノ公主、官吏になる。
アナマチア
第1話
「いやぁああああ! お母様ぁああああ!!」
母――
その光景は恐ろしくも美しく、まるで、狂い咲いた梅の花びらが舞い散る姿に似ていた。そうして血と雪の花びらは花見客を酔わせるように、甘く爽やかな香りを撒き散らしながら、沈氏の命と共に散っていった。
――初雪が降った日。
第四公主――
物々しい足音が
欄花と沈氏は、二人で震える身体を寄せ合い、門が叩かれるのをじっと待っていた。
しかし、門が叩かれることはなかった。
数十人もの
「何事です!? ここが沈
「無礼な! ここには、第四公主の欄花様もおわすというのに!」
侍女たちが口々に喚き立てると、睨みを利かせる衛士たちの間から、巻物――黄色地に金糸で刺繍が施されている――を持った
陛下の御前に仕えている太監が、『
「陛下の
が、その内容は事実無根の驚くべきものだった。
「……私が、陛下の娘では……ない……?」
欄花が呆然としている間に、沈氏が太監に追いすがる。
「わたくしは密通などしておりませぬ……っ! 欄花は正真正銘陛下のお子でございます!」
「それは私が判断することではございません。私は陛下のご意思をお伝えしたまで。あまりしつこくなさるようならば、その場で切り捨ててもよいとのご命令です」
「そんな……! 嘘だわ……! 陛下がそんなことをおっしゃられるはず……っ」
滝のように涙を流し、髪を振り乱して反論する沈氏を見て、太監は
「――誰か」
太監の指示に従った衛士が、太監にすがりついたままの沈氏を、荒々しく引き剥がそうとする。
しかし、沈氏の意思は強く、太監から離れようとしない。そうしてしびれを切らした気の短い衛士の手にかかり、沈氏は亡くなった――。
(お母様が死んでしまった)
だというのに、欄花は沈氏を弔うことも許されず、ひとり
付き人は宮女ひとりだけ。あとの者はすべて殺されてしまった。王を欺いたという罪で、九族皆殺しも避けられないだろう。
欄花は第四公主を語ったといういわれのない罪によって、身分を剥奪され、死ぬまでこの部屋から出ることは許されない。
「……太監も官女も日和見だもの。どうせすぐに、食事や衣服やら手を抜き始めて、人知れず餓死することになるんだわ……」
……そうなるくらいなら。
欄花は、扉の横に置物のように突っ立っている官女に声をかけた。
「ねえ、あなた。頼みがあるのだけれど――」
そうして、官女に用意させた毒杯を煽り、欄花は十五年の短い生涯に幕を下ろした。
――はずだった。
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