第9話[辛い出発]
村に来て数日の士郎の旅立ちを、同じ村人のように…… いや、毎回エルドルさんが来ても宴会は開かれている……
騒ぐ口実が欲しいだけな気もするが、それでも門出に言葉をかけてもらえれば嬉しかった。
エルドルさんもすっかり酔って俺の門出を泣きながら応援してくれている。
泣き上戸とは……
「シロウや冒険者は危険が伴う仕事だぞ! まずお前さんが強くならにゃならん……ヒック」
それ聞くの3回目ですゲリオさん……
賑わう送別会?は遅くまで続きそうなので、主役の士郎は先に休ませてもらう事にした。
宴会場からの道中、暗い道に佇む女性。
だから取り憑いてろよ!
「ミルザさん。怖いんですけど!」
『シロウって言うのよね?』
「はいそうですが」
士郎も酔っているのか態度がデカい。
『シロウ、私の頼みを聞いてもらえないかしら』
「お断りします!」
『な、なんでよ! 私が頭下げてるのよ!』
下げてないし……
「いったい何を頼む気だったんですか?」
『あの人は私を捨てて他に女を作ってたのよ! 許せないでしょ!』
「捨てた? 殺されたんですよね?」
『どっちも同じ事よ!』
全然違うが……
「ちゃんと説明してくれます? 何があったのか。それから考えます」
『正直覚えてないの…… 気が付いたら憎くて恨んで…… でも話を聞いてくれる人が現れて、自分でも知りたくなったのよ』
表情は変わらないが必死さは伝わる。
『商会を一緒に立ち上げるって、私尽くしたのよ! 彼の為に! なのに追い出されて殺されて…… 気が付いたら彼が憎くて! ずっとそばで見てたの! なのに彼ったらニコニコと幸せそうにしてて。私がいないのに…… それが恨めしくって!』
肝心な理由が全く分からん……
「で、頼みって?」
『本当に私を愛してなかったのか聞いてほしいの』
どの道エルドルさんにも話を聞かないとか……
明日から道中2人っきりだし話を聞くぐらいならいいか。
殺してとか言われるのかと思ったが。
士郎は健闘はしてみると返事を濁し、明日の為に寝る事にする。
出発の朝。
昨夜は遅くまで飲んでいたにも関わらず、ゲリオさんを筆頭に村人が大勢…… 半数が見送りに来てくれていた……
「シロウ気を付けて行くんじゃぞ!」
「いつでも帰って来なさい!」
みんな二日酔いで顔面蒼白にも関わらず、笑顔を無理に作ってくれていた。
グレタさんの言う通り大量の食料も頂いた。
「ありがとうございました! またいつか帰って来ますね!」
見ず知らずの俺を、温かく受け入れてくれたトルトの村の人達。
ロイドやルイダの墓参りにもいつか来よう誓う士郎であった。
「じゃ行きますかな…… ウップ」
大丈夫かなこの人……
真っ青な顔で御者席に並び座るエルドルさんが手綱を振る。
ありがとうみんな!
あれ? あっゲリオさん吐いてる。
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