第8話[悪霊?]

冒険者になると決めたものの、この村にギルドはなく、南東にある[ザマリの街]まで行く必要がある。


今の士郎がひとりで行くには厳しいと、3日後に来る行商に同行できる様、村長のゲリオから頼んでくれる事になった。


それまではルイダさんの家を借り、食事などは毎晩ゲリオさんとグレタさんが作りに来てくれる。


村長のゲリオさんは元冒険者だったそうで、若い時に使っていた皮の胸当てや短剣など、気前よくくれた。


武勇伝を聞かされるぐらい我慢しよう。




そして3日後……


朝に到着した一台の馬車は忙しなく荷物をひとりで下ろしており、ゲリオが一方的に話しかけている。


雑貨屋のグレタは検品に忙しい。


士郎は青い顔で商人を見ていた……


中年だろう腹の出た商人。


その背後から抱き付く青白く光る髪の長い女性。


俺この人と旅するの……


仕切りに肩を回す商人。


重いのね……


「シロウよ! いいそうじゃぞ」


手に持つ杖で肩を叩きながら、笑顔を向ける商人。


名前はエルドル。


魔法が使える商人との事で、この辺りならひとりで回っているそうだ。


「ザマリまで馬車で2日はかかるので、食料は事前に用意して下さいね。ホホホ」


士郎を睨む背後の女性……


怖い…… ヒロインじゃない事を祈る。


杖を持つ魔法使いに興味津々であったが、今はそれどころじゃない。


目線を逸らそうと検品中のグレタに食料は服を売ったお金で買うと言ったのだが、士郎が収納スキルを持ってると先日打ち明けていたので、どうせ腐らないからと調理済みの食料を村の人たちが沢山差し入れてくれるはずとの事。


ありがたい。


そして自慢できるINTだけあって容量も余裕である。


結局グレタさんから貰ったお金は手付かずのまま、収納スキルの出し入れの練習にしか使っていなかった。


エルドルさんも一晩は休むそうで、出発は明日の朝になる。


今晩は送別会という名の飲み会だそうだ。


TVもスマホもない世界。


ここでの娯楽は飲み会なのだろう……


まだ見てる。


作業が終わると夜の飲み会まで寝ると集会所にゲリオと向かうエルドル。


毎度の事なのだろう慣れている。


グレタも店に戻る。


そして残された士郎と長い髪の女……


連れてけよ。



『見えるのかい?』


返事をするかシカトの二択を迫られる!


『聞こえるんだね!』


一択でした……


「あ、あのエルドルさんのお知り合いで?」


長い髪で顔を隠す血色の悪い女が目の前に距離を詰める。


ドレス姿だが高価な感じではなく、町娘といった感じの30前後の女性。


『私はミルザ。あの男に殺された元妻さ』


「殺された?」


『そうさ! アイツは私の事を愛してなんていなかったのさ!』


関わりたくねぇ〜


「そ、それで取り憑いてると?」


『取り憑く? そうさね私はアイツが死ぬまで見届けてやるのさ! 私と同じ目に合わせてやる!』


「なるほど… まぁ気長に頑張って下さい」


そう言うと士郎はひとりルイダの家へと帰って行く。


残された女の霊。


キョトンとしてるだろうが表情は変わらない。


ロイドさんの話じゃ触れられないし、害は肩凝りぐらいだろう。


それより関わりたくないと思う士郎であった。





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