第14話 救出に向けて

 司の執務室での教育改革の初会合が終了した。

 司はウォークとトロットに向って、


「あなた方の荷物はここに持って来て下さい。 

 当分の間はここが二人の仕事場に成ります。

 必要なモノが有れば、サドに申し付けて下さい。

 何もかもとは行きませんが、出来る限りの物は揃えるつもりです。

 それでですけど、ウォークはしばしここに残って下さい」



 トロットが退室すると、場の雰囲気がガラリと変わった。

 ここからは別件に移るらしい。

 司が新を一瞥した後、語り始めた。


「ウォーク、この宮殿の詳しい図面を手に入れてくれませんか。

 どうしても、地下牢に至る経路を知りたいのです。

 迷ったと言って居たくらいですから、あなたの記憶ではどう仕様も無いでしょう」

「はい。探して見ます。で、まさかとは思いますが、あの囚人を逃がすおつもりですか?」

「その囚人と会ってからの事です。

 実はその囚人はこの新の父親だと思われます。

 彼の父親がこの国に向かった時期と、その囚人が捕らえられた時期がピッタリ合って居るのです。新の父親は未だに行方不明なのです」


「そう云う事でしたか。危ない橋を一つ、いや、一つ目を渡るのですね」

「ふっふ、その様な含みの有る言葉、私は嫌いでは有りません。あなたを窓際に追いやるようでは教育省も大したことは無いようですね」

「恐れ入ります」

「新、良いわね。ここからが正念場よ!」

「分ってますよ、一つ目のね」


 ウォークは既に腹を決めて居たのか、新の言葉を穏やかに受け止めていた。

 

 新はキラリに眼を向けた。

「なによ、私が居ないと始まらないでしょ」

 ヒラリが続けて、

「事によると、久しぶりの修羅場に成りそうですね。なんだかわくわくして来ますわ」


 サドが不安を露わにして、

「まさか、宮様も加わるのではないでしょうね?」

「叔母様には伝えないでね」

「えっ、その様に言われましても」

「大丈夫、このメンバーなら。それに、いざっとなったらあれを使って見ます。ねぇ、新」

「そうですね。力の程を見極めるにはいい機会だと思います」

「あれと言われましても~」

「今に分るわ」



 さて、その頃、右大臣の屋敷では~


「どうも、気に掛かる」

「あの司の宮さまの付き人ですか?」

「そうだ。あの眼付き、あの囚人と似て居る」

「右大臣さまが密かに捕らえ置かれた者の事ですね」

「ここでは右大臣と呼ぶな。肩が凝って仕方がない」

「申し訳ありません。では、ガボットさま。あの者も同じような使命を持ってこの国に現れたのでしょうか?」

「リネット、そちの言う通りその可能性は十分にある。地下牢の警備を増して厳重にする様に伝えて置け!」

「分かりました」


「ん。それから、あやつが所持していた書物だが未だに残りの分を解明できずに居るのか?」

「はい、なにせ、言語が違っていますし、その深意も伏せられている様ですので~」

「言い訳はよい。今の所、知り得て居るのは『八葉蓮華の小太刀』に何かしらの力が有るということだけか?」

「はい、申し訳ありません」

「『馬鹿と鋏は使いよう』と云うが、使い様が分らぬではどう仕様も無いだろう」

「仰せの通りで御座います」

「その八葉蓮華の小太刀もあの者が何処(いずこ)へとやって仕舞った。事によると、あの新とやらが所持しておるかもしれぬ。それと、蓼の葉に抜かりは無いだろうな。あれがないと、あやつの変な術を封じきれないからな」

「それはもう、万事整えて有りますので」

「うむ」




 時を戻して見よう。

 新の父親の忠は上首菩薩からの使命を受け、ただちに金色世界のこの国に赴いた。

 

 忠は知り得た情報から、当時の皇帝が、つまり、司の父親が何者かに、多分、右大臣にその命を狙われている事を見極めた。

 そこで、国の上層部、それも信頼がおける人物の中の、当時からその職務に当たって居た宰相に白羽の矢を立てた。


 忠が現状を宰相に伝えると、宰相も又その動きを感じ取って居た。

 さて、黒幕は表向きは右大臣で在ったが、その背後に誰やらの影がチラついて居る。

 事を急げば、その影の人物に至ることが出来ない。


と云う状況の中で、市井や宮廷内で情報を集めていた忠が警察機関の目に留まらない筈が無い。


 右大臣の配下の者たちが、宰相の屋敷から出てきた忠を捕まえ、地下牢へと押し込めた。

 その際、忠の懐から八葉蓮華の小太刀と覚書が零れ落ちた。

 右大臣の配下の者がそれに手を伸ばそうとした時に、

 忠は咄嗟に八葉蓮華の小太刀だけを夢の回廊に放った。

 新とは格段上の能力を備えていた忠には、眠りに至っていなくてもそれを可能にする力があったのだ。



 忠への取り調べが始まった。

 「誰の命で何処から来たのか?」

 「何をどれくらい知って居るのか?」

 「宰相とは何を話し合ったのか?」


 忠は黙秘を続けた。


となれば、忠が所持していた覚書を紐解くしかない。何等かの手がかりが見つけられる筈だ。

 所が、その中身はあらゆる世界の言語が用いられて居て容易に解読できなかった。

 たまたま、『夢の回廊』と云う項目だけが辛うじてこの国の見識で持って翻訳することが出来た。

 そこに蓼の葉の事が書かれていた。


 俄かに信じられない事ばかりであったが、目の前で忽然と八葉蓮華の小太刀が消えた事から、取調官はその囚人を確保して置くために牢内に蓼の葉を敷き詰めたのである。

 それでもって、流石に忠も夢の回廊に逃れる事が出来なくなって現在に至って居る。

 

 

 

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