13.おはよう。

ずっと闇の中を歩いていた。何も見えない、何もわからない、僕が誰かも。だけど何か…僕には大切なものがあった気がする。なんだか、寒くて、苦しくて、悲しいけど、その大切な何かを探すために歩みを止めずにただ進んでいた。


『おかあさぁん…』


誰かが、泣いている。


『おかあさぁん…どこにいるの…』


誰かが、迷子になっている…?


声のする方へと歩いていくと、そこには僕よりも少し小さく痩せ細った男の子が地べたに座り込んで泣いていた。


「ねぇ、君、どうしたの?お母さんとはぐれちゃったの?」


僕はこの子よりもお兄さんだから、僕がちゃんと導いてあげないと。


すると男の子はこちらを振り返り、ぐしゃぐしゃに泣き腫らした目を擦って困ったように僕を見た。


『おかあさんいないの…。おかあさんぼくをおいてどこかにいっちゃったの…!』


そう言い終わると、再び瞳を濡らし始める。


「わかった、僕と一緒にお母さん見つけよう!」


そうだ、僕も見つけたい人がいるんだ。


ーーーーーー誰だっけ。


『ありがとうおにいちゃん!』


子供と手を繋いでまた暗闇を歩く。暗闇なのに、何故かこの子のことはよく見えた。


「お母さんは、どんな人?」


『やさしくって、ずっとにこにこしてて、ぼくをだいすき!っていってくれるの!』


先程の今にも泣きそうな雰囲気は鳴りを潜め、楽しそうに母について話し出す。


お母さん…か。僕のお母さんって、どんな人だっけ。僕の家族って、どんな人?


『おにいちゃん?どしたの?』


僕が立ち止まったからだろう、心配そうにこの子は僕を見つめた。


「ううん、何でもない。………僕もね、家族を探してるの。それから、もう一人、凄く大好きな人がいたんだけど…。忘れちゃった。」


『忘れちゃったの…?どうして?』


どうして…か…。どうしてだろう。僕はここに来る前はどこにいた?たしか、たしか……。暗い所に居たんじゃなかったっけ。それから…何があったんだろう。思い出せない。


「…わかんないや。ごめんね、行こう。」


そうやって子供と他にも他愛のない話をして歩いていると、前方に光が見えてきた。途端に子供は手を離して走り出す。


「えっ、どうしたの!ちょっと待って!」


『おかあさん!おかあさん!まって!!ぼくもつれていって!』


光の中には#女性__・・__#がいた。


あれ…何で僕女性を知ってるんだろう…。世界には男しかいなかったはず…男しか…。


『瑠夏、迎えに行くのが遅くなってごめんね。もう置いていかないから。あなたも、この子をここに連れてきてくれてありがとう。そして…目を覚ましなさい。辛いことから逃げてはダメよ。酷なことを強いているのは承知だけれど。でも、あなたには待ってくれる人がたくさんいるわ。ね、#ルカ__・・__#。だから、前を向いて歩き続けるのよ、お母さんはずっと愛してるから…。』


そう言うと、男の子とその母親………、いや、前世の僕とお母さんは光に包まれて消えていった。


「お母さん、僕も、ずっとずっと愛してる…」


そう呟くと、頭上から光が降り注いできた。


『……、……カ…、…ルカ…!…お願い、私を置いて行かないで…!』


愛しい人の声がする。





「ふふ、置いて行くわけ無いのにね、ゼイン。」


そして僕も眩しいほどの光に目を閉じた。














✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿














「ルカ…!私を置いて行かないでくれ…!」


ゼインが泣いている。今までの彼からは想像がつかない程。それに、目に隈がくっきりとできているし、頬も痩けていて王子の面影はどこかへ去っていた。


「ぜ、いん…?なかないで…?」


そっと腕を伸ばして涙を拭おうとするも、腕は少ししか持ち上がってはくれなかった。


なんで?と疑問に思っていると、「ルカっ!!」と大声で呼ばれて苦しいくらいに抱きしめられた。


「ぐぅっ…くるち……!」


そう言うと今度は大慌てで体を離す。


「ご、ごめんね、ルカ…!!」


「ううん…いい、よ…?僕、どれくらい寝てたの…?」


何だか体が重いし、さっき少し見えたけど指が細くなっていた。本当にどれだけ寝てたんだろう…。


「一ヶ月、だよ…。本当に、寝坊助さんだね、ルカ…?ふふふ、おかえり、可愛い私の半身。」


こつん、と額をくっつけて見つめ合う。なんだかそわそわしていると、ガチャッ!と大きな音をさせて扉が開いた。


「「「ルカ!!!」」」


ドタドタと貴族らしくなく息を切らせて走ってきたのは憔悴しきった家族達だった。


「母様、父様、お兄様…えっと…、おはようございます?」


「おそようだよ、ルカ…!お兄様、待ちくたびれちゃったじゃないか…!」


そう言うやいなや滝のように涙を流し始める。


「本当に、お寝坊さんだね、ルカ。母様達、どれだけ心配したと…!」


こちらもハラハラと涙をこぼし始めると、父がそっと肩を抱いてハンカチで優しく拭った。


「それにしても、良かったよ。ルカが居ないと父様も、母様も、ジークも、ゼイン殿下も…みーんな落ち込んじゃって何も手を付けられなかったんだよ。でも……おかえり、ルカ。」


暖かく僕を見る父様。なんだか酷く安心してしまって、


「父様、だっこ……」


久しぶりにだっこを強請ってしまった。


「よしよし、ルカは甘えん坊だねぇ、可愛い可愛い父様達の天使。よく帰ってきたね、おかえり。」


ぽん、ぽん、と一定のリズムであやされると、もう我慢なんてできなくて。


「うぅ……うあぁぁ……!わぁぁぁぁん!!」


声を上げて泣き喚く。父の背中越しにゼインのほっとした顔が見えて、泣きながら手を伸ばした。

伸ばされた手は、きゅっと握られ、愛しそうに撫でられた。


しばらくそうされていると、安心感と泣いていたことによる疲れで僕は瞼を閉じて眠ってしまった。



















「さて、ルカも目が覚めたことだし、みんな栄養のあるものを食べて、しっかり寝て、ルカのために動くぞ。」


「うん、そうだね、クリス。」


「分かりました父上。」


「そうですね、クリス殿。」













※※※※


「ルカ様…良うございました…!!」


部屋の隅で存在感を消してダバーっと涙を流している侍従のルイスくん。




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