8.おわかれ。
僕は何故王子の膝の上に乗せられてご飯を食べさせてもらっているのかわからなかった。
「ルカ、ご飯美味しいねぇ。はい、あ~ん」
パクッ
「もぐもぐ…おいち。あの、なんでぜいんおうじしゃまが…?」
「ゼインだよ。」
「ぜいんしゃま?」
「ゼイン」
「ぜいん!」
呼び捨てにするとそれでいい、というように微笑みながら頬を撫でられる。
「何故かと言うとね、私とルカは婚約者になったからだよ?」
こんやく…しゃ…?
「はぇ…??なんで??」
意味がわからない。何故3歳の自分と16歳の王子が婚約しているのか。
「ルカは自分の腰のあたりに薔薇の形をした痣があるの、知ってる?」
あざ…??そんなものがあるの…?
「しらない…」
両親の方へ顔を向けると、申し訳無さそうな表情でこちらを見ていた。
「ごめんね、伝えてなくて。そう、ルカの腰には薔薇の形の痣がある。痣はね、いろんな形が有って、対になる痣を持つ人同士は、運命の人みたいなものなの。実際母様にもカタバミの花と、父様にはカタバミの葉っぱの痣があるんだよ。だから、というわけではないけどこうしてお互い想い合ってるし。ゼイン殿下の痣の話は結構有名でね?ゼイン殿下は薔薇の棘が痣になってるんだよ。」
「てことはぼくはばらのあざだから、ぜいんがうんめいのひと?」
「そう。よくわかったね、賢いよ。だから王家と公爵家で既に決まっていたのだけど…。ルカは私が運命の人だってわかってた?」
甘い眼差しでこちらを見てくるのが少しムズムズとしたが、何故か心地よく心がじんわりと温かくなっていった。
「えと、うん、なんだかちょっとむねがどきどきしましたよ?」
そう言うとパッと花が開いたように満面の笑みを浮かべるゼイン。その笑顔を見ているとこちらまで嬉しくなってきた。
「はぁ…アレク…。やっぱり嫁に行ってしまうようだよ…」
「父上、私泣いてしまいそうです。色んな意味で。」
「もう二人共…まだルカが嫁に行くのは10年以上後の話だよ?あっという間にその時は来ちゃうけど、それまではいっぱい可愛がろう。」
「「う"ん"…!!」」
なんだかとうさまとおにいさま泣いてるけど、だいじょぶかな?
「それで…兄上はいつ婚約発表をするつもりだい?すぐにでも?」
「ええ。既に準備は整っているようです。」
ぜいんたちがなにかはなしてるけど、ぜいんのなでなですごくきもち~…
「ふふ…見て、ルカが溶けてる、ふふふ…可愛い…ふふ…」
母に指摘されて皆が僕を見ていたようだがゼインの撫で方が上手すぎてほにゃ~んとしている僕にはわからなかった。
う、うますぎる…ぜいん…だいすき…
✿✿✿✿✿✿✿✿✿
「ルカ、おいで。私と遊ぼう?」
「あしょぶ~!絵本読んでほちいの!」
「いいよ、ほら、ぎゅってしてあげる。おいで?」
両手を広げて待ち構えている王子に向かって走り腕に飛び込むと、しっかり抱きしめられて、そのまま縦抱きで移動する。
そのままゼイン王子が泊まっている客室へ絵本を持って行き、ふかふかな絨毯の上で胡座をかいた王子の足の間で僕は本を読んでもらった。
その日のランチやディナーも何故か膝の上で王子にパクパクと食べさせてもらい、ディナーに関しては頭も撫でてもらっていたのですぐに夢の世界へ飛び立ってしまった。
次の日起きるとどうやら僕は王子と一緒のベッドでねていたようだった。それも抱きしめられて。
「んぅ…むにゃ…ん…?ぜぃん…?」
「ふふ、おはよう、可愛いルカ。よく寝ていたね」
もう既に起きていた王子は僕の寝顔を見ていたようで、とろけるような眼差しでこちらを見つめていた。
「ぜいん…おはようごじゃいましゅ…」
「うん、おはよう、ふふ、可愛い」
ちゅ、と頬にキスをされて、僕は何かわからなかったけど嬉しくなるのは感じていた。
そんな感じで王子が滞在する3日間はすぐに過ぎていき、もう別れの時間が迫ってきていた。
「やぁああだあああ!ぜいん~~!!いかないでーー!!わぁぁああん…ぐすっ…やぁあああ~!」
玄関までお見送りしていたのだが、本格的な別れを感じてしまった僕は、父の腕の中で号泣して降ろしてもらえるようにバタバタと暴れてしまっていた。
「ルカ…またすぐ会えるから…!その間は父様達と一緒に居よう?な?いっぱい遊んであげるから…殿下を困らせては駄目だぞ…!」
「そうだよ、お兄様達と遊ぼう?そしたらすぐにまたゼイン殿下と会えるよ…?だから泣かないで、お兄様も悲しくなっちゃう…」
父と兄が慰めてくれるも『悲しい』が先走ってしまい僕には聞こえてなかった。
「ルカ。おいで、可愛い私のルカ。」
王子が手を広げて僕を待つ。父に降ろしてもらって僕は一目散に王子の腕の中に飛び込んだ。
僕の全力を受け止めた王子はそれは嬉しそうに、愛しそうにしながら、宝物を抱きしめるようにして優しく抱き上げた。
「ルカ。可愛い顔を見せて?」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃな公爵令息とは言えない顔を見せると、王子は僕の涙を吸い取るようにキスをした。
「んぅ…すんっ…どうしても…かえっちゃう…?いつになったらまたあえるの…?」
つらい。もっといっしょにいたいのに。ずっとくっついてたい。
「ふふ、一緒にいたいって思ってくれてありがとう。私もまだ一緒にいたいけど、公務をしなければ国民が困ってしまうからね。」
じゃあぼくのわがままでこまらせちゃだめだ…でも…
「そんな思い詰めた顔をしないで?ルカにはずっと笑っててほしいからね。それに、ずっと会えないわけじゃないよ?そうだなぁ…来週の水の日に王城においで?」
いいの…?ぼく、迷惑じゃない?
「ほんとに?こまらない?」
「うん。私はルカに来て欲しいけど…だめ?」
まるで大型犬がしょぼん、としているように見えて、思わず頷く僕だった。
「少し父様は心配だよ…なんだかうちの子チョロい気がするぞ…」
「父上…私も心配です。いくら王子とはいえケダモノの予感がいたします…」
「二人共何言ってるの。失礼にも程があるじゃないか。確かにルカはチョロいけどね?」
「「やっぱり!」」
チョロいルカくんかわいいね。
※※※※※※※※※
補足
1週間は7日
火の日(日曜日)
水の日(月曜日)
風の日(火曜日)
土の日(水曜日)
光の日(木曜日)
闇の日(金曜日)
時の日(土曜日)
ちなみに王城は週休二日制のホワイトです。
決まった曜日がそれぞれの人に休みとして与えられてます。使用人も人によって休みが違います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます