あの子の花に祝福を。

ぽんた

1.おかあさん。

「お前のせいで母さんが死んだんだ!」

「お前なんか生まれてこなければ母さんは生きてたのに」

「お前は疫病神だね。母親を殺してまで生まれて…」


ちがう。おかあさんは言ってくれたよ。『瑠夏が生まれてくれてお母さん嬉しいわ!大好きよ!』少し顔色が悪かったけど、ニコニコして、幸せそうに言ってくれたよ。


だから、


たたかないで。


けらないで。


なぐらないで。


ぼくをみて。







おかあさん、どうしてぼくをうんだの?どうしてぼくをおいていったの?ぼくもいっしょにつれていってほしかった。おかあさん。


ああ、すごくわがままな子だな、ぼくは………









「おかあさん、ごめんね」










きれいな月だなぁ、地面がどんどん遠くなってくや…。


バシャァン!!!








僕は静かに見守る月に別れを告げて崖から海に飛び込んだんだ。







✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿





うっすらと意識が浮かび上がるとぼくは真っ白で何もない部屋に立っていた。



すると、記憶の奥底で眠っていた懐かしい声が聞こえてきたんだ。



『ごめんね、瑠夏。辛い思いをさせてしまったわ…』


おかあさん?どこにいるの?


『ごめんね、それは言えないの。ただ、神様が、少しだけなら話していいよって言ってくれたのよ』


そうなの?ぼく、ずっともういっかいでいいからまたおかあさんとはなしたいっておもってたの。


優しく、温かな手がさらさらと頭を撫でる。それがあまりにも心地よくて、あまりにも懐かしくて、思わず泣いてしまいそうになった。


『お父さんも瑠衣も、お義母さんも。酷いわ。許せない。許せることじゃない。瑠夏、本当にごめんなさいね。あなたにあんな目に合わせる為にここに来たわけじゃないのに…』


いいんだよ、おかあさん。またおかあさんとはなせてうれしいもの。


『ええ…!お母さんも嬉しい!…あのね、瑠夏、もうすぐ時間だから手短に話すけど、神様がね、もう一度新しく人生をやり直しなさい、って言ってくれてるの。今度は辛い思いはさせないからって。』


おかあさんもきてくれる?


『お母さんは行けないわ。』


どうして?


『ここで神様のお手伝いをしなきゃいけないから。』


ぼくもおてつだいする!


『ふふ、ありがとう。でもだめよ。これはお母さんにしかできないことなんだから!……だからね、瑠夏。もう一度、新しい人生を生きなさい。ちゃんと、お母さんみたいに瑠夏を愛して、でも瑠夏を置いていかないように。そんな人の元へ生まれなおしなさい。それが瑠夏のためだと思うし、お母さんも神様と一緒に瑠夏が幸せになる姿を見たいわ!』


どうしても、だめなんだ…。…………わかった…。でも、もう二度とあえないってわけじゃないでしょう?ちゃんと、ぼくとまたおはなししてくれるよね?


『ええ。もちろん!瑠夏がどうしても会いたい!ってなったらお母さんが神様に頼んでお話させてもらえるようにするから!安心しなさい!…あぁ…もう時間だわ…。瑠夏、本当にごめんなさいね…、そして、愛してるわ…!ずっとよ…!』


おかあさん、ぼくも、あい…し…





そこでぼくの意識はぷっつりと途絶えてしまって。ゆらゆらと暖かい水の中にたゆたうように心地よい眠りについた。



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