第10話 少女は上級冒険者と邂逅する
約30名の冒険者から能力を得たレイチェルにとって、第五階層から第七階層のモンスターは何の脅威にもならかった。
唯一手こずったのが、第七階層に出て来る亡霊系のデスストーカーと言うモンスターで、このモンスターは “
魔法の効果は単純で、対象をマーキングし、いつでも対象が何処にいるのかを把握出来ると言うだけのものである。
相手が油断するまでは近づいたりせず、一定の距離を取りながら壁の中に隠れていたり、顔を出さずに角の先で待ち構えていたりする。
レイチェルもそう言った所で手こずらされたが、意図せずかくれんぼを楽しめたので、悪い気分ではなかった。
そして、第八階層。
入り組んだ立体迷路のようになっており、階段を登ったり下りたりしなければならない面倒な階層である。
この辺りになると、上級冒険者ですら殆ど足を踏み入れる事のない場所となっている。
その理由は単純で、ここまで来るのに時間が掛かる事と、危険性が高く、割に合わないからである。
上級冒険者であれば、ギルドでの仕事も色々とあるので、よほどダンジョンに潜るのが好きでない限り、実入りの良い安全な仕事を普通は選ぶ。
しかし、レイチェルはこの第八階層で冒険者の姿を見かける。
レイチェルはその冒険者に見おぼえたあり、すぐにデスストーカーを倒した時に得た “
デスストーカーと同じく、壁の中に隠れたりして彼の様子を窺う。
レイチェルは改めて確信する。
この冒険者は、第一階層で初めて会った冒険者であると。
この冒険者の見た目は、頭巾をかぶった背の高い無精髭の男で、目が垂れ目で鼻が大きい。
あの時は一方的にやられてしまったが、まさかこんな所で会えるとは思ってもいなかったレイチェルは、ウキウキしながら男の後を追う。
モンスターと戦っている姿などを見る限り、やはり彼は相当な手練れであり、第四階層にいた冒険者達とは一線を画す。
それに、明らかに後をつけられている事にも気が付いている素振りも見られた。
その冒険者の男が大きな扉の前で立ち止まり、動かなくなってしまう。
あの扉の奥には何があるのだろうかとレイチェルは考えたが、霊体の体でも何故か壁にぶつかってしまい、扉の中の部屋がどうなっているのか見る事が出来なかった。
仕方なく、レイチェルは冒険者の様子をただ見守り続ける。
一時間程経過しても冒険者にはなんの動きもなかった。
しかし、明らかにレイチェルの居る方向を警戒している。
レイチェルは壁の中に隠れて、そっと見ているのだが、実は何度か目が合った様な気もしていた。
このままではいつまでも動きそうにないと思ったレイチェルは、壁の中から姿を現し、男の方へとゆっくり歩み寄った。
特に身構えもせず、男はレイチェルが目の前に来るのをじっと待っている。
レイチェルはそんな態度を取る彼に対して、少し不安を抱き、自分から声を掛けるべきかを悩みながら、徐々に足取りが重くなっていく。
そして、とうとう目の前まで来てしまっていた。
冒険者の男は顎に生えた無精髭を撫でながら、つぶやく。
「あの亡霊野郎と同じ魔法を使っているな。 もしかしてデスストーカーの特殊個体かぁ? いや違う。 マーキングされたのはこの階層に来てからだった……」
レイチェルを観察しながらそんな事を呟く彼に、レイチェルはなんて声を掛ければいいのかを悩んでいた。
そして、レイチェルが選んだ選択は、顎に手を当てて男の真似をする事だった。
その甲斐あって、男の方からレイチェルに話しかける。
「おいおい、真似っ子か? 見た所亡霊みたいだが、俺に何か用なのかい? お嬢ちゃん」
意外な事に、男の声色は明るく、友好的な態度を示した。
警戒も怠っているわけでもないので、戦闘をすると言う選択肢も十分ある。
だが、せっかくなのでレイチェルは、もう少しこの男の話をしてみる事にする
「お嬢ちゃんじゃない。 私はレイチェル。 そっちは?」
「これは失礼しましたお嬢様。 俺はオロフ・ナウマン。 以後お見知りおきを。 それはさておき、
そう言ってオロフは大袈裟な素振りをしながらレイチェルに対して一礼して、再び同じ問いを投げかけてきた。
しかし、そう言う仕草をした意図が分からずにレイチェルは少し困惑してしまった。
「……別に、ようは無い。 オロフは…… どうした…… の?」
「あぁん? もしかしてあれか? 冗談とか言っても分からないタイプなのか?」
「冗談?」
「ああ、なるほどなー。 まあ、そんな事より、特に用は無いって言ったか? それは、本当か?」
オロフは突然レイチェルに向けて殺意を放つ。
レイチェルとしてはそっちの方が分かりやすくて助かると思い、笑みを浮かべて両手に持った杖を構える。
すると、オロフはレイチェルを見ながら大きな笑い声をあげた。
「おいおい、なんか杖を二本持ってるなとは思ってたけどよ。 杖の二刀流なんて初めてみたぜ!」
「もしかして馬鹿にしてる? 別に、変じゃない。 これだと両手で魔法が使える」
「アッハッハッハ! そうかぁ? 両手で二つの魔法を使えるのか、そいつはすげぇな。 魔法の得意な奴等は何人か知ってるけど、同時に両手で二つの魔法が使える奴は殆どいねぇなぁ。 よし、じゃあ俺の行った通りにしてみれくれ。 まず一つ杖をしまう。 そして、空いた方の手を突き出して、両手で魔法を使ってみてくれ」
レイチェルはもしかしてと思い、杖を一つ投げ捨ててからいつもの様に両手で魔法を使った。
使った魔法はファイヤーボール。
丁度階段の下からモンスターが迫って来ていたので、そのモンスターに二つの火球を放った。
「杖持っていのに……」
「アーーーーハッハッハー! 俺はいいと思うぜ! 杖の二刀流! 唯一無二って感じで格好いいもんなぁ!」
明らかに馬鹿にされているとわかり、レイチェルは少し腹を立てた。
しかし、今まで両手に杖を装備していた自分の姿を思い返して、恥ずかしくなりオロフの方を悔しい気持ちを胸に抱き睨みつける。
「いやぁ、すまんすまん。 ここまで潜るのに結構しんどかったからよぉ、ちょっとした事でもツボに入っちまうんだ。 気を悪くしないでくれ。 そんな事より、今撃った魔法の威力は相当なもんだな。 レイチェル、ちょっと俺と賭けをしないか?」
「賭け……?」
レイチェルは考える。
ここで賭けの話しを切り出してきたと言う事は、何か自分にさせようとしているのではないか?
そして、賭けは平等に見えて、確実にオロフの有利な勝負を持ってくるだろう。
なんとなくそう思ったのだが、モンスターを狩るのも飽きてきた所なのでレイチェルはオロフの賭けに乗ってみる事にする。
「いいよ。 どんな勝負にするの?」
「ここに砂時計がある。 この砂時計は五分間経つと中の砂は全部下に落ちる。 俺がこの階層を逃げまわるから。 この砂時計の砂が落ち切る前に捕まえられたらレイチェルの勝ちだ」
「鬼ごっこ?」
「そうだ! 鬼ごっこみたいなもんだ。 それで勝った方が相手の望みを一つ叶えるってのはどうだ?」
「うーん…… わかった。 それじゃあ、その賭けに乗る。 用意は出来てる。 いつでも初めていい」
「よーし、それじゃあヨーイドンで始めるぞ!」
オロフが目の前で「ヨーイ」と言い始めたので、レイチェルは少しドキドキしてドンの合図を待った。
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