滲色(ニジイロ)の短編集

猫山鈴助

異世界トラック駆逐隊

天気が良くて風が心地よいからって、3ヶ月ぶりに外に出てみたのが間違いだった。


 横断歩道を渡る僕の目の前に突然飛び込んできたのは、まるで怪獣みたいに大きくて恐ろしいトラック。さっきまでは何もなかったのに…!


あぁ、轢かれるのってどんぐらい痛いんだろ、こわいな。

なんて考えながら、俺は最後の時を待った。


しかし、


『そこのお前、危ないですよっ!』


地がひっくり返りそうなほどの轟音と共にトラックは目の前から吹き飛び、代わりにメイド服を着た綺麗な女性がトラックのいた場所に立っている。不思議なのはトラックが砂のようにサラサラと散った事と、周りの通行人もあの轟音に気づいていない様子だった事だ。


『お前、危うく異世界行きになるところでしたわよ』女性は髪を整えながら丁寧なのか荒いのか分からない口調で話しかける。


異世界。確かにアニメや小説では主人公がトラックに轢かれて異世界に転生する作品が多い。だがこの女性の口ぶりでは『トラックが異世界転生を引き起こしている』ようじゃないか。


それよりも、だ。

「トラックを吹き飛ばしたんですかっ!?運転手は!?」


『ええ、確かにぶっ飛ばしました。でも、異世界トラックに運転手なんかいねえんですの。』


「あれは異世界トラックと言うんですね。」


「申し訳ねえですが、ここらへんでお暇させていただきますわ」


まだまだ聞きたいことはたくさんあったが、メイド服の女性は途中で会話を切り上げ、忙しそうに走っていってしまった。


あの女性と異世界トラックとやら、あれらは一体なんだったのだろう…。

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