僕は、宇宙人 ~地球人を装っているので、僕の持つ本当の実力を他の誰も知らない~
yアキ
#1 『僕は、地球人。』
■
茨城県県南辺りに守高高校という高校がある。
その高校に属し、何か役職に就いているでも、学校一の不良やイケメンなどでもない、『一般』生徒――汐月湊。
それが今の僕の肩書だ。
突然だが、まずは中学校の頃の思い出の話をしようか。
その話を聞いて、僕という人間のことを解って貰えたら嬉しい。
僕はとある事情から、中学2年のとき、とある中学校に転校することになった。
「じゃあ、汐月君、簡単に自己紹介をお願いね」
先生のその言葉に、僕はまず一番大切な部分を説明して語る。
余計なことを言って目立ちたくもなかったのだ。
「僕は、地球人です。よろしくお願いします」
ファーストコンタクトのこの挨拶に、クラス中が沸いた。
クラス全員が笑っていた。
正直、僕はなぜ周りの皆がこれほど笑っているのか分からなかった。
愛想笑いでもすればいいのだろうか、それとも笑われている理由を誰かに尋ねた方がいいのだろうか。
分からなかった。
当時のクラスメイト達は僕のことを『チキュウジン』というあだ名で呼んでいた。
その度僕は、「『地球人』とは、この星地球の上に住んでいる、ホモサピエンスの事を指す言葉であり、僕の名前ではない」と説明した。何度も何度も。
なのに、クラスメイトたちは理解してくれなかった。
何度も説明する最中僕は思った――彼ら地球人は僕が考えているより馬鹿なのかもしれない、と。
知らないことは多い僕だけど、この頃のこともまた――よくわからない思い出の一つとして記憶の彼方にしまってある。
――中学時代の回想、終わり。
現代に戻る。
■
突然だが、僕は、宇宙人である。
普段は、自分が地球人であることを公言して憚らない僕だが、実はびっくり、宇宙人なのである。
はい拍手。
ああ、月に行ったことがあるとか、地球も宇宙の一部だから俺たち全員宇宙人だとか、そういうことではないよ。
そういう意味で言っているわけじゃない。
端的に言えば、事実として、僕は宇宙から来た人間である。
多くの人は信じてくれないだろうけど、別にそれを信じてもらう必要はないし、そもそも僕はこの星で地球人として生きていくことを決めているのだ。
地球人だと思われている状態は、僕にとって都合がよいのも確かだ。
でも、心の中まで嘘をつくことはない。
――僕は宇宙人なのだ。
僕の心の中を覗いている誰かがいるとして、その人が僕のことを痛い『中二病』だとか、そう言う風に思って貰っても――良い。
僕のことを何も知らないなら仕方ない。
彼らの嘲りや想定の甘さは、彼ら地球人が認識できる世界の狭さを考えれば、――仕方ないことなのだ。
僕の持つ力の一端すら、君は知らないのだから。
■
下校中。
戸籍上の家へと向かっている。
あくまで地球での拠点であり、僕の本当の実家ではない。
そもそも、この家に住んでいるというのすら偽装であり、僕が今住んでいる拠点はここから最短でも、7500万キロは離れているのだ。
僕の拠点がどこかって?
おいおい、そんなの火星に決まってるだろ?
他にどこがあるっていうんだ。
あぁ、もちろん実家は母星にあるよ。
火星生まれってわけじゃない。
あんな星、住めたもんじゃないしね。大抵の生物にとって過酷な環境の星だ。
ちなみに真面目になんで火星を選んだかって言うと、地球から近いからだ。
いい物件を選んだと思ってるよ。
だって、月だと探査中の地球人がいるから、ゆったりくつろげないし、水星は居住に適さない。
火星なら地球にほどほどに近くて、比較的住みやすい環境だからね。
とにかく、僕は火星に作った基地から遠隔操作で宇宙船を迎えに着させていた。
ただ、地球人に見られてしまうと困るので、宇宙船のワープ位置は戸籍上の家に指定してある。
この家を、この星での僕の活動拠点としている。
地球拠点で暮らすのもいいが、たまに火星に帰らないとペットの『宇宙猫』が寂しくて泣いてしまうからね。
という感じで、僕は地球上での僕の活動拠点である、貸家に帰ってきていた。
ただ、この日、僕は疲れていて【気配検知(ディテクション)】の能力をうっかりオフにしたまま学校から帰ってきてしまったんだ。
「ただいま……」
僕も地球に来てしばらく時が経っている。
地球の習慣にも大分慣れてきて、家に帰ったら「ただいま」と独り言を呟くいう地球人の習慣にも慣れてきた。
この日、前述の通り、僕は【気配検知】をオフにしていた。
だから――、
「ここが、汐月湊の家……」
――だから、後ろからぴょこぴょこと付いてきていた女の子のことにも気づくことができなかった。
でも、たまたま【気配検知】を切っている最中にたまたま尾行されているなんて、誰が思うんだ。
家に入り、まず僕の目に付くのは、一般的な家庭の玄関だ。
この家はあくまで地球のものであり、改変は特には加えていない。
冷蔵庫に入っているスポドリを飲み、のどを潤す。
冷蔵庫にスポドリを返す。
「そろそろ、行くか……」
僕はそうクールに呟くと、自分の部屋へと帰る。
部屋には、4つ足で立つ大きな円錐台が置かれている。
勘のいい方ならおわかりだろう。
これは『宇宙船』である。
特に、短距離を快適に移動するのに適したタイプの宇宙船だ。
■
茨城県守高高校の入学したて1年生――そしてひょんなことからオカルト研究部部長となってしまった。自己評価ではそこそこ美人な一般生徒――高浜ながせ。
それが私の肩書だ。
オカルト研究部という部活の現在の状況を説明しよう。
幽霊部員の3年の先輩1名(女)。
1年の部員1名(女)(私)。
以上。
つまりは、どん底である。
希望がない。
そもそも部活として成り立たないくらいに人数が減っている。
なんでこんな部活に私が入ることになったかというと、それはそんなに難しい話ではない。
私はオカルトが好きだからだ。
部活に入らずとも小学校のころから好きだった。
高校で、文化部でも運動部でも何らかの部活に属さなければならないと言われたとき、私はじゃあ、オカルト部と、何も考えずに入部届を出してしまったのだ。
入部の期限は5月末だったのに、気が急いでそうしてしまった。
それが間違いだった。
部活連合の集まりとか、部費交渉とか、正直誰もがやりたくないなって思う雑務が部活にはつきものだ。
それらを現在、私は押し付けられている状態なのだ。
部長もいつの間にか私になってるし。
ちなみに3年の先輩にはまだ1回しかあったこともない状態だ。
そんな私が今何をしているかというと、謎の新入生(まあ私も新入生だが……)の素行調査である。
素行調査と言われると探偵のやる仕事だろう、と思うだろう。
しかし、訳の分からないものを実地に足を運んで調べることは、オカルト研究者がよくやることでもある。
何かを発見、検証するには『実際にやってみる』という過程がどうしても必要になるのだ。
河童が目撃された河川敷とかに、ついつい行ってみるのが、私という生き物の生態だ。ちなみに河童は見つかりませんでした。のし。
今日はそのオカルト活動の一環として、やばい同級生の調査をしてみた。
彼は私と同じで1根2組の生徒である。
何がやばいって、入学して最初の自己紹介だ。
「僕は汐月湊、地球人です。これからよろしくお願いします」
しずしず、とそう言ってのけたその男を、どう評価すればいいか、クラスの全員はかなり迷った。
私も当然迷った。
『チキュウジン』という言葉の意味を、私は最初は飲み込めなかった。
どう考えても冗談など出てきそうにない真面目な外見の男の口から、そのような言葉が飛び出すのだ。
戸惑って当然である。
そして、彼はその場の全員の硬直を完全に無視して、真顔で席に戻った。
なんだこいつは、というのがクラス全員の総意だ。
私も最初はそう思ったが、そのあとの様子を見る限り、その男に特段妙な要素は拾えなかった。
最初の挨拶のせいでクラスメイトから敬遠されていたが、普段のコミュニケーションに大きな問題があるわけでもなさそうなのだ。
クラスに打ち解けているというわけではない。
最初の自己紹介を外したせいか、浮いているのは確かだ。
クラスメイトは彼に関わりたがらない人がほとんどだが、彼に虐めのような行為をしている人もいる(彼自身は気にしていなさそうだが)。
総じると、正面切ってクラスメイトと対立している訳でもないが、最初の挨拶以外では特段目立つわけでもない生徒。
しかし、だからこそ気になった。
彼がなぜあのようなことを言ったのか。
そして、今に至る。
私はオカルトの調査の一環として、同級生の汐月湊を尾行している。
その結果、彼の家を突き止めることに成功した。
ターゲットが家に入ったのを見届けると同時に、私は陰から出てその家を眺める。
その家は初見の印象では普通の家だと思った。
しかし、しばらく見ているうちに少し妙な部分があることに気づいた。
それは――、
「表札がない……?」
そう、本来あるはずの『汐月』の苗字の表札がないのだ。
これは所詮、大したことのない違和感だ。
田舎では付ける人が多いと言うだけで、別に表札をつけるのが義務であるわけでもない。
あるいは表札をつけ忘れただけとも考えられるだろう。
だから、それだけでは大した問題とはならない。
しかし、それが呼び水となり、私はさらに調査を進めることになる。
「他に、何か変なところは……?」
特に、見渡らない。
本当に?
本当に?
いや、違う。
最初から変だった。
そう、この違和感の正体は――、
「ドアはどこにあった? 湊くんはどこからあの家に入った?」
自分自身にその疑問を問いかける。
ドアがあった……筈だ。
そこに。
私は彼がドアを開けて中に入ったのを確認した、筈だ。
ほら、そこに……。
あった筈なんだ。
「最初から無かった、の?」
オカルトについて調べてる私も、目の前で超常現象に出くわしたことはない。
初等教育から培われた「こうあるべき」という科学を基にした先入観がある。
その先入観が、目の前の超常現象を否定する。
あるいは科学的な考察を加えようとする。
彼が通ったあと、ドアが消えた。まるでその家の中に『何か』あって、覆い隠そうとばかりに。
――いやあり得ない。馬鹿馬鹿しい。
つい私はそう思いたいと思っている。
この異常を、無視して、知らないふりをしてしまおうと。
でも、私の頭が狂ってなければ、ドアは消滅しているのだ。
あるいは、見えないだけでそこにはあるのか?
ドアが。
世の中には不可思議な現象がきっとある。
そして私は『オカルト』と呼ばれるそれを、追い求めてきた。
「……確認してみれば、分かる」
心臓の鼓動を聞きながら、雑草が僅かに育った家の敷地へ音を殺して侵入する。
ドアのあったはずの場所に触れる。
触れたとたん、そこには、紛うことなき木製のドアが現れる。
そのまま――ガチャ、とドアを開けて、家の中へ進む。
「……」
ひたひたと床を歩く。
奥へ進む。
すると、左手側に少しだけ開いているドアがあるのが見えた。
その向こうには、彼がいるのだろうか。
どくん、と心臓の跳ねる音がする。
このドアの先に何があるというのか。
彼は、汐月湊は何者なのか。
好奇心と恐怖心が5:5くらいでせめぎあう。
私はそのドアの中を恐る恐る覗き見た。
■
そこで私が見た光景は筆舌に尽くしがたい。
おおよそこれまで見たことのない形をした不思議な円錐台の鉄の塊だ。
武骨で装飾の無くメタリックで継ぎ目のない鉄塊から、4本の足が地面に伸びている。
大きさは大体8畳の部屋にギリギリ収まりきる程度。
「そろそろ、行くか……」
汐月湊はそう言うと、その鉄塊の中に入り込む。
今度はドアが突然現れるということはなく、台形の底面の円にあるハッチから乗り込んだようだ。
私は絶対に見逃せないとばかりに、その光景をスマホのカメラで録画する。
音は断じて立てない。
そして、証拠を撮る。
何か、これまで見たことのないような何かを、私は目撃することになるのではないか――、と私はそう思った。
それをカメラに治めていくことを、まるで自分の使命のように思った。
そして、彼が乗り込んでから約10秒――その鉄の塊は一瞬にして消滅してしまったのだ。
「何……これ。今の……」
突然消えたメタリックな円錐台を見て、私は全く現実感を感じられなかった。
残された私はそのまま部屋に恐る恐る踏み込む。
人が消えた。
突如として。
何が起こったのか。
これは夢か何かか。
古典的だが、私はほっぺたを抓る。
そうして、自分が夢の中にいるかどうかを確かめる。
その結果は果たして――、
「……痛い。夢じゃない」
教室で突然彼が『自分は地球人である』などと言ったとき、私は彼を変な奴だなと思ったくらいだった。
しかし、実際にはもっと"根本的に"変な奴だったのだ。
彼が乗っていったあの鉄塊は、何だろうか。
わざわざ、彼が『自分は地球人である』と説明した理由は、何だろうか。
結論はシンプルだ。
突拍子もない考えではある。
でも、そう考えれば、今目の前で起こった事象もまた説明できる。
彼は――汐月湊は宇宙人なのだ。
それは、私にとって、人生最大の大スクープだったと言える。
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