第40話 始まった緊急会議



 リタは魔女の森から皇宮へのを作っていた。


 世界に三人いる魔女達が帝国を発展させたと言われている事から、彼女達はどの帝国からも大切にされている。


 彼女達が自然を司る妖精だと言う事は帝国の皇帝のみが知る事であり、その事から新皇帝となる戴冠式に出席する事は太古の国王との約束事だった。


 そのリタが、戴冠式以外で皇宮に来るのは希有な事なのである。

 世継ぎが産まれた事に浮かれた皇帝から、皇子誕生の宴に呼ばれた事もあるが、それは街に行くついでに立ち寄った程度である。



 今朝。

 朝食を食べ終えて自室に戻って来たギデオンは、突然部屋に現れたリタに、腰が抜ける程に驚いた。


 皇帝の部屋の横には、リタの現れるの部屋が用意されてはいるのだが。


「 魔女リタよ。戴冠式でもないのに何用だ? 」

「 天からお告げがあってのう。にそれを伝えに来たのじゃ 」

 皇帝陛下を呼びをするのは後にも先にも魔女リタだけである。


「 天からのお告げだと? 」

が言いに行けと煩いからのう 」

? 」

「 わしの弟子の事じゃ!皇太子の婚約者じゃったグレーゼの娘じゃ 」

「 アリスティア嬢の事か…… 」

 彼女が領地で療養していた半年間は、実は魔女の森で修行をしていのだと、ハロルドから聞いた事を思い出した。


「 その、天のお告げを申してみよ 」

 ギデオンは何故アリスティアがなのかは敢えては聞かなかった。

 気にはなったが。



「 近い未来に魔物が出現する。世界を救うのは帝国に現れる一人の聖女 」

 リタはギデオンに一語一句間違えないで告げた。


 一度しか言わないからと付け加えて。


 伝え終えたリタは、役目は終わったとばかりにやって来た道に戻ろうとした所で、ギデオンに引き留められた。


「 美味しい珈琲でもどうかな? 」と言われて。

 ミルクたっぷりと言う言葉に惹かれて、執務室に行くギデオンの後ろをトコトコと付いて行った。


 ギデオンは、魔物や聖女など到底信じられない事に、自分だけでは対処出来ないとして、宰相ハロルドを呼ぶ事にした。



「 グレーゼ宰相!陛下が執務室に来るようにお呼びでございます 」

「 陛下が? 」

 ギデオンの侍従がハロルドの執務室にやって来た。


 まだ勤務時間には早い時間。

 何事かとハロルドは慌ててギデオンの執務室に駆け付けると、そこにはリタがいたのである。


「 リタ殿!? 何故陛下の執務室に? 」

 ハロルドは皇帝陛下の執務室にリタがいた事に驚いた。

 自分家のダイニングにはいるのだが。


 豪華なソファーにチョコンと座り、出された豪華なカップで珈琲を飲んでいた。

「 コーヒーも美味いの~ 」と言いながら。


 この時リタはコーヒーの味を知った。

 ミルクマシマシのカフェオレがお気に召したらしい。



「 そなたはリタと面識があるのか? 」

「 実は…… 」

 最近リタが公爵家に出入りしている事を、ハロルドはギデオンに話す事となった。


 決して隠していた訳ではないが。


「 近い未来に魔物が出現する。世界を救うのは帝国に現れる一人の聖女 」

 リタが聞いた天のお告げをギデオンから告げられ、カルロスはここに呼ばれた事の説明を受けた。


 皇帝と魔女リタの太古よりの関係も。


 こうして二人は、リタに対する情報を共用しあい、これからの事の相談を始めた。




 ***




 出勤して来たカルロスは、執務室にいる筈のハロルドがいない事に拳を握りしめた。

 最近はずっと彼は執務室に泊まっていて。

 勿論、昨夜も。


 多分父上は陛下に呼ばれているだろうと、オスカーと一緒に登城する馬車の中で話していたのである。



 昨夜はアリスティアも、魔女の森に泊まり掛けで邸を離れていた。

「 世紀の瞬間をこの目で確かめてきますわ!ホホホホホ 」と、高笑いをして。


 本当は自分達も立合いたかったのだが、魔女の森に入れないのだから仕方がない。



 グレーゼ三兄妹には決め事があった。

 これから起こる事は決して誰にも他言はしないと。

 特に宰相になったハロルドには言わないと。


 転生前のこれからの3ヶ月間、皇宮で一体何が起きたのかを知りたいからで。


 ただ。

 アリスティアの花嫁のすげ替えだけは防ぎたかったのだ。

 あんな未来を、可愛い妹に再び味わわさせる訳にはいかない。


 それ故にレイモンドとアリスティアの婚約を解消し、父親であるハロルドを宰相にする必要があったのだ。

 ニコラス・ネイサン公爵を宰相にしたままでは、再び同じ事が起こる可能性があるのだから。



 アリスティアの言う変えられない未来がある。


 新月の夜に魔女リタが天のお告げを聞くと言う事。

 一月後の新月の夜に異世界から聖女が現れる事。


 そして……

 レイモンド皇太子と聖女が結婚する事。


 それは魔物と戦う聖女に必要な事だと言う事は、カルロスもオスカーも納得をしていた。


 世界を滅ぼす魔物に聖女を一人で戦わせる訳にはいかない。

 そこには誰かの補佐が必要で。

 その補佐をする為には、全ての判断を即決出来る権限を持った皇太子が側にいるのが相応しい。


 ただ。

 まだ若い聖女の側にいるのならば、皇太子がである事が都合が良いのは間違いない。


 だから転生前に。

 そんな結論が議会で決まった事は理解出来る事だった。

 今、宰相がハロルドだとしても。

 そんな決定になる事は。



 アリスティアとしてもそれは理解していた。

 だからこそ転生前では、タナカハナコが側妃になる事を受け入れたのである。


 しかし。

 レイモンドがタナカハナコを好きになるならば、二人の側にはいたくないと言う切なくも悲しい想いがある。


 だからこそ……

 アリスティアは嫉妬で魔女にまでなってしまったのだから。



 そんな様々な思いを共有して、グレーゼ三兄妹はこの日、自分達の共有する未来に足を踏み入れたのである。




 ***




 カルロスが執務室で仕事をしているとハロルドが戻って来た。

 本当は仕事など手に付かなかったが。


「 父上! リタは? 」

「 お前は……リタ殿がここに来た事を知っているのか? 」

「 ……… 」

 しまった!


 知っている筈がないのだ。

 昨夜の深夜に聞いた天のお告げを今朝リタが陛下に告げにこの皇宮に来た事なんて。


 こんな時。

 オスカーならば相手を煙に巻く事に長けているのだが。

 自分はそうもいかない。

 カルロスは言葉に詰まった。



「 陛下の侍女に聞いたのか? やはり箝口令を敷く必要があるな 」

 ハロルドはそう言いながら、メモをして来た書類をカルロスに差し出した。


 何でもメモるのはカルロスと同じ。

 因みにオスカーは自分は頭で覚えるタイプだと豪語している。


「 はい! それを綴じます! 」

 カルロスは慌ててハロルドから書類を受け取った。

 心の中で陛下の侍女達に詫びながら。



 色々と準備をするハロルドは、ギデオンから聞いた詳細をカルロスに話をした。


 カルロスは驚いた振りをしながら話を聞いていて。

 リアクションがオーバーにはなってないかと、言葉を選びながら相槌を打ったり。



「 やはり陛下はリタ殿が魔女ではなくて、妖精だと言う事を知っておられた 」

「 そうですか…… 」

 よくよく考えれば、太古より魔女は危険な人物だと言われている。

 転生前のアリスティアがそうであったように。


 そんな魔女ならば、皇宮に程近い魔女の森に住まわせている筈が無いのだから。



「 それで今リタは? 」

「 陛下の執務室のソファーの上で昼寝をしている 」

 この時間は何時も昼寝をしてるらしいと言いながら、ハロルドは懐から懐中時計を取り出した。


 因みにこの後。

 昼寝から起きたリタはに戻ろうとしたが、道に迷って宮殿の中をウロウロしている時にジョセフと出会したのである。



「 陛下から緊急招集を掛けるように命じられた 」

「 緊急招集? 」

 カルロスは驚いた顔をする。

 初めて聞いたような振りをして。


 陛下の側近が殿下を呼びに行く筈だから、お前は大臣達に連絡をするように言われ、カルロスはガッツポーズをしながら、各大臣達の元へ向かおうとした。



「 カルロス! 重要事項だから、ニコラスとスワンソル閣下も招集してくれ 」

 ニコラスはネイサン公爵家の党首で、スワンソルはエルドア帝国のもう1つある公爵家だ。

 カイゼンと言う党首がいるが、彼はかなり歳がいっている。

 ニコラスはハロルドと同い年だが。


「 はい 」

 ちっ!流石にネイサンを呼ばない訳にはいかないか。


 カルロスはネイサン元宰相を見ると虫酸が走るのだと言う。


 世界を揺るがすような重要案件には、やはり公爵家の党首を呼ばない訳にはいかない。

 大臣職を解かれても。

 公爵家はエルドア帝国を支える皇族の血筋なのだから。



 皇帝陛下からの緊急招集に集まったのは、皇太子殿下と各大臣達と公爵家の党首が二人。


 カルロスはハロルドから議事録を記録する書記官に任命された。

 普通の会議では専門の書記官がいるのだが、やはり事が事だけにと言う事で。


 会議での詳細を知りたいカルロスにとっては好都合だ。

 因みに皇帝陛下の側近と皇太子殿下の側近は彼等の側にいる必要があるから、オスカーもこの会議に参加する事になる。


 

 カルロスとオスカーは視線を交わせると互いに親指を立てた。


 そんな二人を、レイモンドが羨ましそうに見つめていた事には勿論二人は気付いてはいない。



 緊急招集で大臣達が集まった会議では、先ずは魔女リタの聞いた天の声の信憑性の議論になった。


 魔女の言う事なんか信用ならぬだとかなんとか。


「 間違いないから、ちんたらしないで早く事を進めろ! 」と叫びそうになるのをカルロスもオスカーも耐えた。


 人は危機に瀕した時。

 それを受け入れたくないと言う感情に支配されるものである。



 その日のうちに箝口令が敷かれ、この場にいる者達は自宅に帰る事を禁止された。


 しかしだ。

 深夜まで続けられた会議の話し合いは一向に進まなかった。


 午後の休憩で、皇太子殿下がやけにご機嫌になって戻って来た事に何故かと思いながら。



 そうして2日目にしてようやく話が纏まった。


『 備えあれば憂い無し 』

 決して魔女を信じた訳ではないが、無視して本当に何かあれば、取り返しの付かない事態になる案件である事から、それに向けて対策を取る事に決まったのである。



「 リタを信用するしないで2日間も掛かったんだぜ? 」

「 この後どうやって、タルコット帝国とレストン帝国の皇帝と三国での決まり事を決めるんだ? 」


 今ならば、ロキとマヤに書簡を持たせを通らせて各皇帝に渡して貰う事も可能だが。


 転生前にはそれが出来ない筈だ。


 ロキとマヤをエルドア帝国の魔女の森に住まわせ、彼女達と親しくなる事が出来たのは、アリスティアが魔女となり魔女の森に行ったからだ。


 今ではグレーゼ邸のダイニングに、夕食を食べに来ていると言う。

 毎日のように。



 そして……

 3日目の朝。

 会議室にある人物が現れた。


「 ジョセフ…… 」

 ギデオンが驚きの声を上げた。


「 第一皇子殿下? 」

 宰相ハロルドを初め、各大臣達が次々に驚きの声を上げる。


 彼が会議の場に姿を現した事は過去には一度も無かった事で。

 彼は学園時代から研究室に閉じ籠るようになり、政治よりも研究に夢中になっていたからだ。



「 兄上は科学の第一人者です!この異常事態には科学者である兄上の頭脳が必要だと思い、無理矢理頼んでこの会議に来て貰いました 」

 レイモンドがそう言って嬉しそうな顔をした。


 無機質な顔のジョセフはレイモンドの席の横に座った。


「 わたしはアリスティア嬢に頼まれたから来ただけだ! 」


 ジョセフはやはり無機質な顔をしながらそう言った。

 






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