夏祭りの約束

@kunimitu0801

夏祭りの約束

「明日、夏祭りだね」

 藍が元気よく言った。

「そうだね。」

 僕は笑顔を返すけど、胸はドキドキしていた。今年もあの夏祭りがやってくる。毎年の恒例行事だけど、今年は特別なんだ。だって、藍に告白したいって思ってるから。

「何着ていくつもり?」

 藍が僕の反応をしっかり見ている。彼女はまだ何も気づいていないみたいだけど、思わず考え込んでしまった。

「えっと、いつも通りのTシャツでいいかな」

 僕はそう答えたけれど、内心ではもっと格好よく見せたいと思っていた。

「そうか。でも、もう少しおしゃれしたほうがいいんじゃない?せっかくの夏祭りなんだし」

 藍の言葉に、思わず目を見開く。

「おしゃれか…」

 僕はちょっと照れながら言った。

「藍のセンスを参考にしたいな」

「私にお任せあれ。一緒に選びに行こう」

 藍は笑顔のままそう提案してきた。

 ドキッとした。僕と藍の一緒の時間が、僕の心をどうにかしてしまう。

 次の日、僕たちは昼から祭りの準備をしていた。

「屋台、何食べたい?」

「まずはたこ焼きかな」

「おお、たこ焼き、いいね。それじゃ、たこ焼きとりあえず食べに行こう」

 そう言って、藍は笑顔で待っていた。僕の心臓がバクバクするのを感じながら、彼女らしい元気に促されて、一緒に屋台へ向かう。

 たこ焼きを食べていると、さっきよりも近づいて座っていた藍の顔が、何か言いたげだった。

「陽太、ねえ」

「どうしたの、藍?」

 僕は急に緊張した。

「手、つないでもいい?」

 その言葉に、一瞬固まった。もちろん、僕もそうしたい。でも、言葉に出せずに目を合わせたまま、ただ笑うしかなかった。

「うん」

 僕はやっとの思いで言葉を絞り出した。彼女の手を取ると、温かい感触が広がり、心が高鳴った。

 その瞬間、ふと気づく。周りの目が気になる。でも、藍との手をつなぐ快感はそれを上回っていた。このまま続けられたらいいなと思った。

「ねえ、陽太。明日、もっと特別な思い出になるといいね」

 藍が笑って言った。

 その言葉が、僕の心に火をつけた。そう、明日は本当に特別な日になるはずだ。その思いを胸に秘めながら、夏祭りを心から楽しむことにした。


          *


 夏祭りの当日、僕はいつもより早く目が覚めた。急いでシャワーを浴びて、鏡の前で服装を決める。藍に何か特別な印象を持ってもらいたい。結局、白いシャツに薄い青の短パンを選んだ。「これ、藍はどう思うかな」と一人でつぶやいてしまう。

 祭りの会場に着くと、すごい人混み。色とりどりの浴衣を着た人たちが楽しそうに笑い合っている。そんな中、藍を見つけると、彼女は可愛い浴衣を着ていた。フリルがついてて、思わず目を奪われる。

「陽太、待った?」

 藍が嬉しそうにギュッと手を振る。

「待ってないよ!藍、浴衣すごく似合ってる」

 思わず褒めてしまった。

「ほんと?ありがとう!」

 藍は笑顔で照れている。その可愛さに、またドキドキが加速する。

 屋台を巡りながら、「これ食べる?たこ焼き、いい匂い!」藍が指さす。つられて、「食べる、食べる!」返事をする。たこ焼きを買って、二人で座って食べ始める。

「やっぱり、たこ焼きは最高だね」

「うん、おいしい!陽太と一緒に食べるからさらにおいしいよ」

「そう言ってもらえると嬉しいな」

 僕は少し照れながら言った。

 その後、射的や金魚すくいにも挑戦。有名な景品を取った藍は、僕に自慢げに見せる。

「見て、金魚取れたよ」

「すごいね!藍は本当に器用だなぁ。」

 藍は得意げに鼻を高くし、と挑戦的な目を向けてきた。

「陽太も頑張らないとダメだよ」

「絶対に何か取るぞ」

 意気込んで射的に挑戦するが、なかなかうまくいかない。

「陽太、もう少し右だよ、狙いを定めて」

 藍がアドバイスをくれるが、緊張してうまくいかない。

「ああ、全然ダメだ…」

 落ち込んでいると、藍はちょっと笑った。

「大丈夫、次があるよ」

「次も頑張るけど、次はきっと藍のために取るからな」

 思わず言葉が漏れた。

 それを聞いた藍はぱっと顔を赤らめた。

「ほんと。お願い」

 そう言われた瞬間、心臓がバクバクした。

 夕暮れが近づくと、屋台の明かりが一段と輝く。花火大会も近い。何か特別な瞬間がやってくると感じた。

「陽太、次は花火見に行こうか」

 藍が瞳をキラキラさせて提案してきた。

「うん、行こう」

 笑いながら答えるが、心は花火のことだけじゃなく、藍との距離がどうなるのかも気になっていた。

 花火を待ちながら、僕は藍とその場の雰囲気をじっくり楽しむ。

「陽太、やっぱり夏祭りっていいね」

 藍がほっこりした表情で言った。

「うん、最高だよ。藍と一緒にいるから、さらにね」

 この言葉を言いたいとずっと思っていたし、今のこの瞬間がずっと続けばいいのに、と強く願った。どんどん心が高鳴っていく。

 周りは花火の音に包まれ、僕たちの気持ちもどんどん膨らんでいく。これから一体、何が待っているのか…。


          *


 花火が夜空に大きく咲いて、一瞬息を呑む。圧倒的な美しさに心が震える。

「すごい、綺麗」

 僕が思わず叫ぶと、隣の藍も目を輝かせている。

「ほんとだね、陽太。ここから見るの最高」

「これは…特別な思い出になるかもな」

 心の中で呟くと、ふと藍の方を見た。彼女も僕を見ている。その瞬間、目が合った。気まずさを感じつつも、何か温かいものが芽生えてきた。

「陽太、今度は一緒にお祭りの準備とか手伝ってみない?」

 藍が笑顔で提案してきた。

「うん、ぜひやりたい」

 内心のドキドキを隠すように、張り切って返事をする。

「じゃあ、来年の祭りはもっと一緒に楽しめるね」

 藍が言った。その時、彼女の手がそっと僕の腕に触れた。思わずビクッとしてしまう。

「ご、ごめん、びっくりした?」

 藍の謝罪に、僕は慌てて首を振った。

「いや、全然大丈夫。嬉しかったから」

 言葉がうまく言えず、無理に笑みを作った。

 花火が続いている中、突然、強い風が吹いてきた。

 その瞬間、彼女の浴衣の裾が風で揺れた。思わず視線を奪われ、口が滑ってしまった。

「藍、浴衣似合ってる」

「ほんとうに?照れるなぁ。またそういうこと言うんだから」

 藍は頬を赤らめて笑った。その笑顔が嬉しくて、僕はさらに笑顔になった。

 花火が終わり、周りは拍手と歓声に包まれる。

「今のは最高だったね!もっと見たい」

「また来年もこうやって一緒に来ようね」僕の言葉に藍が期待に満ちた顔で見つめてくる。

 その瞬間、僕の心の中で何かが揺さぶられた。彼女といる未来を思い描いていた。でも、何か気になることがあった。藍と過ごす時間が楽しい一方で、彼女が本当に自分をどう思っているのか、考えると不安がよぎった。

「藍、さっき手を繋いだけど…やっぱりどう思っているの?」

 急に思ったことを口にしてしまった。「陽太?」驚いたように藍が目を見開く。

「その、友達としてそれとも…もっと…特別な…」

 言葉が曖昧になっていく。藍は少し考えるように沈黙した。

「私も、陽太ともっと特別な関係になりたいと思ってるよ」

 彼女が静かに答えた。

 一瞬、時間が止まったように感じた。まさかそんなふうに思ってくれていたとは。心の中に温かい光が差し込み、嬉しさとドキドキでいっぱいになった。

「ほんとに?それなら、僕も同じ気持ちだよ」

「これからもっと一緒にいろんなことを経験しようよ。そして、ゆっくりお互いを知っていけたらいいな」

 藍が優しく笑う。その目が真剣で、心の奥までしっかり伝わった。

「そうだね、これからのこと、楽しみにしてるよ」

 胸が高鳴る中、僕はこの瞬間が永遠に続けばいいのにと思った。藍との特別な未来を本気で願った。

 しかし、そこから訪れる運命のいたずらには、まだ気づいていなかった。理解できないような不安や試練が待っているなんて、全く想像もできなかった。


          *


 その後、藍との毎日はどんどん特別なものになっていった。学校の帰り道に一緒に寄り道したり、部活の後にカフェでおしゃべりしたり。心が温かくなる瞬間が増えていく中で、一つのことが気になっていた。

 ある日、図書館で勉強していると、藍がふらりとやってきた。

「陽太、ここにいたんだ」

「ああ、藍!ちょうどこの本が気になって読んでたところだ。」

 藍はその本を覗き込み、しばらく黙っていたが、やがて顔を赤らめて言った。

「陽太は本当に熱心だね。私も、学ぶことは大事だと思う。」

「藍も、もっと勉強してるの?」

「うん、でも私は楽しいことをもっと知りたいな。陽太と一緒にいる時の方が、勉強より楽しいんだ」

 彼女の言葉に心が躍る。

「それなら、今度は一緒に遊びに行こう!好きなカフェとか教えてよ」

 そう言った瞬間、藍はぱっと顔をほころばせた。

「いいね!あそこのカフェが特におすすめだよ!」

 その日の放課後、約束通りカフェに向かった。二人でスイーツを選んでいる時、室内の小さな音楽が流れ始めた。

「この曲、好きだな。藍も?」

 そう聞くと、藍は嬉しそうに頷いた。

「うん、夏祭りの時にも流れてたよね」

「そうだ、あの時の花火、今でも忘れられないよ」

 僕が言うと、藍は頬を赤らめた。

「私も!その時の陽太の言葉、すごく嬉しかった」

 そんな話をしていると、急に藍が真剣な顔になる。

「陽太、ちょっと話があるんだけど…」

 心臓がドキッとする。

「え、何かあったの?」

「最近、私たちの関係について考えてるの」

 彼女の言葉に、不安が胸をよぎる。

「そういうの、あまり詳しく考えてなかったんだけど…藍はどう思ってるの?」

 思わず聞いてしまった。

 藍は目をそらさずにしっかりと答えた。

「私はね、陽太のことが好きなの。友達以上の…そういう特別な関係になりたい。でも、どうしたらいいのか迷ってる。」

 言葉が出ない。嬉しさと不安が同時に押し寄せてきた。

「僕も…本当に同じ気持ちだよ!でも、これからどうなっていくのか…不安だ。」

「私も分からない。でも、一緒に考えていけたらいいなと思ってる。二人で、歩んでいきたい」

 藍の真剣さにどんどん心が温かくなっていく。

「そうだね、一緒に歩んでいこう!私も、藍と未来を築いていきたいから」

 思わず手を伸ばし、彼女の手をそっと握った。そこから生まれる温もりが、全てを優しく包んでくれた。

 そのまましばらく手を繋いでいると、周りの景色がすごく華やかに感じた。

「陽太、これからも一緒に色んなことをしていこう。お互いをもっと知り合わないとね!」

 藍が笑いながら言った。

「もちろん!どんなことでも、藍と一緒なら楽しめると思うよ」

 心が高鳴り、未来への期待感でいっぱいになった。

 春が近づき、僕たちの関係は新たな一歩を踏み出す。小さな気持ちの変化が、やがて大きな絆に育っていくのを感じた。僕が藍を守りたい、そして一緒に成長していきたいと心から思った時、ようやく見えた気がした。

 この特別な関係が、どんな試練や喜びに繋がっていくのか、どれだけの思い出を作れるのか…それはまだ誰にも分からない。でも、藍と一緒にいる限り、どんな未来でも乗り越えられるはずだと確信していた。

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