俺の不等式

斗花

第1話

疾風はやてが俺のゲームの進行を見てア然としている。



「ちょっと、先輩。どーゆーことですか?」



疾風は俺が高校の時の、人見知りな俺が心を開けた数少ない後輩の一人。



「ゴールデンウィーク中、何してたんですか?!」



うるさい疾風を手で払う。



「うるせーよ。良いだろ、別に。

そうゆう気分じゃなかったんだよ」



「俺、部活の合間縫って10もレベル上げたのに……」



疾風はいつも俺に合わせてゲームを進めてくれる。


俺、伊達だて朝長ともながはゲームが大好きだ。

それと同じくらい漫画も大好きだ。


ゲームをやって寝不足なんてことはもう、しょっちゅう。



しかしここ最近、俺はそのゲームすら面倒くさい。

漫画を読んでも全く感動しない。



「先輩、何かあったんですか?」



俺のゲームを進めながら疾風が優しく聞いてくれる。



「体調とか悪いんですか?」



だけどその優しさにも心が動かない。


手元にあった漫画本をパラパラとめくっても何も感じない。



「……なんか、つまんねー」



カチカチと真剣にレベルを上げる疾風を寝転びながら見上げた。



「やる気もおきねーし、感動もしねーし、関心も気力もない」



トュットュルー、と俺のゲームが鳴る。



「それ、五月病じゃないですか?」



疾風は頭をかきながらゲームを閉じて漫画を選び取った。



「……五月病?」



「はい。


新一年生や新入社員に五月頃現れる症状で、なんかウツっぽくなるらしいです」



人気不良漫画の三巻を棚から抜き取った。

汚い部屋をボーッと眺める。



一ヶ月くらい前、大学生になってから中高の友達の野上優二と高校時代の友達の隣の部屋に同居している。



「……五月病、ねぇ」



おかげでこの部屋は俺達(主に野上)の後輩のたまり場になりつつある。


漫画やゲーム、雑誌はほぼ貸し借り自由で俺の漫画は後輩から大変評判が良い。



「それって、治るの?」



現に疾風もその後輩の一人だ。



「さぁー……。


でも五月病って名前だし、六月になったら治るんじゃないですか?」



漫画をパラパラめくり「これ、借ります!」と、近くにある紙に名前とタイトルを書く。



俺も野上もケチだから誰かが借りパクしないようしっかりチェックをつけていて、貸すときはいつも紙に書かせている。



「ついでにゲームをレベル上げしといてくれよ」



疾風は「分かりました」と立ち上がって帰ってしまった。



時計を見ると、まだ18時。バイトまであと1時間。



……ダリーなぁ。



着替えて財布と携帯持って電気消して鍵かけて………。


超面倒くさい。



何で俺、野上とシフト今日に限って被せなかったんだ。



野上とはバイト先も同じで、ここの近所のカレー屋で働いている。



野上は働き者だから今日も16時からガッツリ1時くらいまで働くみたいだけど、俺は19時から普通に二時間であがる。



おかげで野上は職場で何やら一個、位が昇格。



俺は上司にも気に入られず時給は変わらず850円。



「……あー、もうっ!」



時計を見ると既に30分経っていて、ダルい気持ちを抱えたまま、ゆっくり立ち上がり適当に着替えて家を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る