第3話

始業式から帰ってくるとなぜか蘭ちゃんが俺の部屋で寝ていた。



……おい、おい、おい。

なんだよ、これっ?!




しかも蘭ちゃんはなぜか新品の桐高の制服を着てる。



気持ち良さそうに俺のベッドで眠る蘭ちゃん。




最近、平和だと思ってたが……。

ここに来てまさかの展開。



「蘭ちゃん……?」



俺は蘭ちゃんの肩をポンポンと叩く。

すると蘭ちゃんはパチッと目を覚ました。



それから慌てて立ち上がる。



「寝ちゃった……!」



あ、寝たのは素なのか。



ただ、恐らくこの格好は誰かに入れ知恵されたな……。



俺の頭の中に複数の人物が一瞬にして浮かび上がる。



まず、姉ちゃん。

あの人はいつも蘭ちゃんに変なことを吹き込むから。


が、今はこの家にいないしらわざわざ電話で指示するタイプじゃない。



じゃあ、玄兄?

蘭ちゃんの一番上のお兄さん。


いつも俺達のことを密かに応援してくれる。

だけどこんなことを吹き込むキャラじゃない。



晴海ちゃんってゆう蘭ちゃんの友達も頭に浮かんだけど、あの子は色々分かってても蘭ちゃんに言ったりはしない。



と、なると……。



流星先輩、だな。

あの人、俺達のことメチャメチャ面白がってるし。


俺の理性と欲望の戦いを。



「ゆきくん?」



俺が下を向いて色々考えてると蘭ちゃんが俺に首を傾げて尋ねてくる。



「ん、なあに?」


「私、明日から高校生だよっ!」



無邪気に笑う、蘭ちゃん。そして咳ばらい。



「だから、私は明日からゆきくんの正式な後輩ですっ!」



……すげー、嫌な予感。

そして俺に抱き着き、言う。



「今日から幸也先輩ですね」



随分まえに淳士が言ってた顔が思い浮かぶ。


「女子に先輩呼びされるのって萌えるよな」



あいつ……。



「いや、良いよ。今まで通りで。

俺は別に全然、先輩呼びとかにこだわらないし」


「ダメですよっ!

先輩には敬語って淳士が言ってました!」


淳士には先輩付いてないけど。



つーか、あいつ何気に蘭ちゃんのこと気に入ってるよな……。



「淳士の言うことなんて真に受けなくて良いよ」



すると蘭ちゃんは少し落ち込む。


「ゆきくん、ごめんね……?」


小声で俺を見上げる。



もう、作戦なのか素なのか分かんねーよ!



「ゆきくんはこんなこと、嬉しくなかったよね?」



いやいやいや……。



嬉しいか嬉しくないかなら断然、嬉しい。



俺は制服好きだし、蘭ちゃんは可愛いし、ぶっちゃけ先輩呼びもそこそこ好きだ。



だけど、違くてっ!




「……嬉しいけどね、蘭ちゃん。目的は何なの?」



こんなただの誘惑のために、俺の部屋に上がってたなんて、そんなことは絶対ない。




「それはねっ!」



すると蘭ちゃんは笑顔で言う。



「幸也先輩に受験のお礼をする為です!」



はい、犯人確定。


あの変態ボーカリスト……。

俺の理性と性欲を弄びやがって!

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