仏像転生 カルヤーナミッタの異世界寄帰伝

カルヤーナミッタ

マイトリーとの出会いと教えの始まり

第1話 因果の目覚め

カルヤーナミッタは、慈悲の瞑想に深く沈んでいた。心の奥底で、自らの意識が広がり、全ての生き物へと向かっていた。


「すべての生きとし生けるものが幸福でありますように…」


その心の声は、静かに繰り返され、彼の内なる平和はさらに深く広がっていく。瞑想の中で、彼は微細な感覚の変化に気づく。視界がぼんやりと揺らぎ、まるで夢のように現実が変わり始めていた。


「これは…?」


彼は一瞬、目の前に広がる異様な景色を観察したが、すぐに心を戻し、妄想である可能性を考えた。


「これはただの心の中の幻影かもしれぬ…」


彼は冷静に、サティ(気づき)を保ちながら、その現象をただ観察し続けた。


しかし、意識がはっきりするにつれ、彼はそれが単なる妄想ではないことを悟り始めた。目の前に広がる暗い部屋の景色は消えることなく、逆に現実味を増していった。自分の周囲を取り囲む空気が重く、異様に感じられ、肌に触れる感覚が鈍くなっていた。彼はゆっくりと目を開き、さらに深く息を吸った。


「……これは?」


彼は手を見下ろした。自分の手は冷たく、動かない。石のように固まっている。


「これは……自分は石像。いや、仏像なのか…?」


カルヤーナミッタは一瞬、驚きの感情が心をかすめたが、すぐに呼吸を整え、瞑想の中で培った静けさに戻った。


「驚くことはない。すべては因果によるものだ。これもまた、私のカルマがもたらした結果に違いない」


彼は周囲を見回す。見知らぬ世界。自然とはかけ離れた、異様な建築物や風景が目に飛び込んでくる。しかし、恐れや不安は全く感じない。ただ静かにその状況を観察し、次に何をすべきかを考える。


「……この姿にも意味があるはず。仏像の姿を持ちながらも、心は変わらず。私の心は今、この瞬間に存在し続けるのみ」


彼は次第に、この姿で目覚めた理由がカルマによるものであり、今まさに新たな役割を果たすべき時が来たのだと感じ始めた。


「すべての生きるものが幸福でありますように……。そのうち、この場にいる意味が見えてくるだろう。私はただ、ここにいるべき理由を見つけ、役割を果たせばよいのだ」


そして、カルヤーナミッタは静かに目を閉じ、再び深い呼吸を整えた。彼の心は仏像の姿となった身体と共に、異世界でも揺るぎない静けさと慈悲に満ちていた。

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