第四十一話 秋葉ママ

やっちゃったー…。

さっきは何かそういうムードになったおかげで変に思われなかったけど、よく考えたら清春を何とかしようとしてたよね。それなのに何の脈略もなく清子を抱きしめて、同時にこんなの当たり前って…。

痛い。控えめに言って痛すぎる。

それに私達はこの数分で完全に清春の存在を忘れていた。ある意味すごいと思う。

清春は興味津々な顔でこっちを見てくる。

だけど抱きしめたら逃げられるんだよなぁ…。


「夕顔様?」


「あっ、いえ…清春くんはどうしたら一番心をひらいてくれるのかなと思いまして…。」


「それならまずはこの部屋から出してあげなさい。」


清子に相談していると後ろから今日まだ聞いていなかった声が聞こえる。


「秋葉様…この部屋から出すというのは?」


「そのままの意味です。ここは男の子が楽しめる空間ではありません。もっとも、六条殿に男の子が楽しめそうな施設はありませんけど…まだ中庭なら楽しめるんじゃないですか?」


秋葉はそう言いながら清春の前にかがむ。

あれ?秋葉様って子どもいないんだよね?

しゃがんで目を合わせるところや、私達には絶対に見せないであろう優しい笑顔は母親のようだ。


「こんにちは、私は秋葉。これからよろしく。」


なんということだろう。秋葉の溢れ出る聖母オーラでも感じ取ったのか、清春はウンウンと頷いて笑っているではないか。


「ねぇ、清子様。今の秋葉様優しさが溢れ出してないですか?」


「えぇ。アレは双子かそっくりさんだと思います。こんなに優しいわけ…。」


「二人共なにか言った?」


「「いいえ。何も言っておりません。」」


やっぱり友達は偉大だ。こういう時ハモるんだから。

秋葉も特に気に留めずに清春を撫でる。

頭を怪我して包帯を巻いているから、背中をさすってあげている姿は本当に母親のようだ。


「秋葉様、お子さんがいらっしゃるんですか?」


半分冗談で聞くと秋葉は少し笑いながら首を横にふる。


「いいえ。私に子どもはいませんよ。ですが梅壺様の教育をさせてもらってますから面倒見が良くなるのかもしれませんね。手のかかる後輩もいますし。」


最後の言葉に若干の悪意を感じたけど、秋葉は未来の斎宮。つまり御息所の娘である梅壺の教育係らしい。

それなら納得だ。いくらなんでも五歳に満たない子と十歳ちょっとの子では落ち着きが違うから秋葉からしたら清春を安心させることなんて造作もないんだろう。


「…さま。」


「「!」」


私達が何をやっても声を出さなかった清春が、声を出そうとしている。

清子はその場に座り込んで泣き始めていた。


「清春くん、どうしたの?」


秋葉の声に笑顔になると清春は小さい声で、でもしっかりと言った。


「お母様。」


あっ。

一瞬にして氷のような寒さが部屋に流れる。

さっきは冗談で言ったのが伝わってたから助かったけど、よく考えたら適齢期を過ぎて夫のいない秋葉にその手の話はご法度だった。

そこに清春の何の悪気もないお母さん発言はちょっと…いやかなりダメージを負うことになりそうだ。

口をパクパクさせながら倒れかけている秋葉にギュッと抱きつく清春。

その笑顔と言ったらもう…。


「清子、夕顔。」


「「はい!」」


秋葉の声が少し震えているのに気付いて私達はすぐさま我に返る。

いつも頼りになる彼女が震えているんだ。

もしかすると相当心に傷を負ったのかも…。


「母って…良いものですね。」


私の心配は杞憂だったようで、そこには頬をピンク色に染めて清春の背中を撫でる一人の母親がいた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜お久しぶりです

この前バリバリ書いていくと言ったばかりなのに不甲斐ない…


私用で一、二週間ほど不定期更新となっていまいますがどうぞよろしくお願いします。

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