第三十話 解決の糸口
主犯格の見当がついたことで熱くなっていた私はついに一睡もできずに朝を迎えた。まぁ、新年をこんな形で迎えるのも斬新で悪くないかもしれない。二度とごめんだけど。
でもまだまだ疑問は残っている。どうやって東宮を殺した?昔考えたように、ただ味噌汁にそば粉をいれるだけじゃすぐに毒見役にバレてしまう。ならどうやって?
「新年あけましておめでとうございます。永久様、姫様。」
右近がご飯を持って挨拶に来てくれたときにようやく永久がいることに気付く。何気に私が帰ってきてからずっと一緒にいてくれるのが嬉しい。だけど今はそんな事考えている暇はない。
「今日の朝ご飯は気合を入れて海老の甘煮にしましたよ!」
「海老の甘煮…!」
私はあの日東宮の献立に合ったことを思い出して見てみる。
えっ、これが甘煮なの…?
私は甘くトロトロのソースのようなものが海老にかかっているのだと思っていた。
だけど目の前にあるものならあるいは…!
「ねぇ右近、この甘煮ってあなたの独自のものとかじゃないわよね?」
「はい?私にそこまでの家庭力を求めないでください。」
よし、これほど説得力のある言葉はなかなかない。これなら確かに毒見にバレずにそば粉をいれることが出来る。
それに清光が本当に何も知らなかったからこその犯行なのだろうともうかがえる。
「永久、ちょっといい?」
「…何だ?」
いつになく真剣な表情を見て察してくれたのか、永久も目つきが心無しか鋭くなる。
「東宮の死、つまりそば粉の入れ方について謎が解けたの。」
「わかった。話を聞こう。」
右近は今台所にいるから聞こえないはずだ。右近に危険なことを知られたくない。そしたらあの子まで危険にさらしてしまうことになるんだから。
「まず清光の言っていたこと。つまりそば粉を味噌汁に入れたのは間違いないの。」
「あぁ、そうだな。実際にお前に振る舞ったのもそば粉入りだったんだろ?」
「そう。でも毒見役が気付かなかったということは何らかの理由があったからなの。」
「それは…匂いだけじゃなくてか?」
「匂いである程度の味覚を狂わせることは出来るけど、食感はバレてしまう。」
そう、犯人はそれを考慮したから念入りにこんな綿密な計画を立てたんだろう。
「だから、そば粉ごと別の場所に入れ替えたの。海老の甘煮のところに。」
私はあの時味噌汁にばかり目がいって甘煮にノーマークだった。だけど、驚くほどに海老にはヒントがあった。
この時代の甘煮は、スパイシー系の調味料と甘みのある調味料を合わせた、粉状のものだったんだ。そこにそば粉っていう典型的な粉を入れてバレることがあるだろうか?いやない。
永久にそのことを伝えるとうーんと困ったように首を傾げる。
「言いたいことはわかったし、何となくだけど、これが現実的に可能なことだと言うこともわかった。でも、これにはもうひとり必要だよな?」
「そう、肝心の、そば粉を入れる時。だけどこれは簡単に出来るのよ。」
「へ?簡単にって…そうなのか?」
私は黙って適当に砂を水にいれると小さな穴の空いた紙を用意してそば粉入りの水をぶちまける。すると粘りのある塊が残って水は流されていく。
永久はそれを見てハッとする。
「そうか…!配膳を準備している間に味噌汁を別の容器に入れて、水を吸って粘り気の出たそば粉を海老に付け直したわけだな。」
「そう。それが出来るのは…?」
「…天皇の食事を運び、部屋の内装をする内膳童だけだな…。」
そう、そして鏡のときの一件をまとめてみると、犯人はいなくなった子が怪しい。あと忘れない内にお願いしなくちゃ。
「永久、清子様と元越前国司、為雪様を調べてくれない?」
「それはもう御息所様がやったんじゃ…?」
「今度は条件をつけるわ。右大臣家との関係を調べてみてくれない?」
もう犯人の目星はついている。なら逆算的に考えればいい話だ。
「…正月早々からいい仕事だな…。」
「…ごめん。」
確かにお休みの日に仕事が入ったらイラッとするに違いない。
永久は気にするなとでも言わんばかりに私の頭を撫でると立ち上がる。
「安心しろ。俺結構こういう調査好きだから。」
それだけ言うと永久は右大臣家、清子一族、そして為雪の関係を調べに外へ歩いていった。
さてさて、私は私でやらないといけないことがいっぱいある。まずは右近の身の安全なんだけど…。
流石に右近を御息所の女房にしてもらうのは欲張りがすぎるだろうからなぁ…。
この際永久の屋敷に仕えてもらえば良いんじゃないか?
駄目だ。永久のところということはあの色欲野郎がいる。私の頭に頭中将が浮かんできたからすぐに追い払った。
それに消えた内膳童の居場所も探らないといけないし…。
早く休暇終わらないかなぁ…。
現代では絶対に言わなかった言葉が漏れてきて自分でもびっくりする。だけど本当に休暇が終わらないと御息所ともコンタクトを取れないし前に進まない…。後は永久がどれだけ早くに共通点を見つけてくれるかだけど…。将来有望な文◯記者だ。きっとすぐにスキャンダルという名前の共通点を見つけてくれるだろう。
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