オッド・アイズ

君塚直紀

第一章 私たちは〈オッド・アイズ〉

第1話 運命の日

 遡ること中学一年。

 中学入学式の次の日、学校から帰ってくると家には誰もおらず、テーブルの上には目が点になりそうな額が書かれた借金明細書と「灯里へ、お父さんたちは逃げることにしました」と書かれた置き手紙が残されていた。

 最初は何かのドッキリかとも思ったが、強面の明らかにヤバそうなおじさんたちが数人乗り込んできたのを見て、


 あ、これガチなやつだ……


 成績は良くないが、この状況はさすがに察した。

 それと同時に、強面のおじさんたちは、


「おまえの臓器を売って金だせ」


 なんて言ってきたもんだから、ベランダに逃げようとしたが、三階の高さは想像以上に怖く、あっけなく捕まってしまった。


(あぁ〜。私、売られるんだぁ〜)


 あまりにも唐突なことで実感があまりないが、漠然とそんなことを考えてしまった。


 だが、奇跡が起きた。目の前に一人の女性が現れたのだ。

 その人は右手の拳銃を構えると、躊躇なく撃ち始めた。

 弾は的確におじさんたちに命中し、一人、また一人と血を吹き出しながら倒れていった。

 ただただ見ていることしかできなかった私だが、これは逃げるチャンスと思い、回れ右すると同時に走った。

 足には自信があったので、逃げ切れると本気で思っていた。

 でも、気がつくとさっきの女性が私の進行方向を塞ぐように待ち構えていた。

 先ほどまで背後にいたはずなのに、どうして目の前にいるのか全く理解できなかったが、結局私の人生はここで終わりか、と言う気持ちだけはあった。


 ところが。


「あなた次第ではあなたの借金を返してあげるわ」


 と言われ、何も考えずに頷いてしまった。


 それが、私の青春がなくなった瞬間だった。


「じゃあ、あなたは今日から私の弟子ね」


 とか言って、拳銃を差し出してきた。


 何これ? と聞き返すと、


「これからあなたは殺し屋になるのよ」


「マジ?」と聞き返すと、「マジ!」と言われ、「やらないとダメですか?」と聞くと、


「あんたに残された選択肢は二つ。自分の臓器を売って借金を返すか、他人の臓器を撃って借金を返すか、どっちを選ぶ?」


 そんなの後者に決まっている。だって傷つきたくないもん。

 それからというもの、来る日も来る日も訓練の毎日。射撃の練習から隠密行動の仕方、体術の実践、体の仕組みの勉強など、ありとあらゆる暗殺に必要な知識を叩き込まれた。


 あれから四年。中学という青春を血生臭い思い出で染めてしまった私は青春の仕方もわからず、ただただ夢見る毎日を送っている。

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