第8話 合戦遊戯部

 

 転入そうそう、すごいこと経験しちゃったな……。


 髪の毛を乾かしつつ、そんなことを私が考えていると、おばあちゃんの声が居間から聞こえてくる。




「な~に~!」


「電話がなっているよ~」




 電話?

 不思議に思いつつ、髪の毛を乾かし終えた私は、居間にあるスマホを手に取る。


 ……本当だ。

 連絡先なんて、ほとんど持ってないのに。




「もしもし?」


『ひゃい! もももっ、もしもし!』




 うん?

 この声――もしかして、明美さん?


 別れ間際に、連絡先が欲しいって言われて、渡したけれど……。

 早速、かけてきてくれたんだ!




「もしかして、明美さん?」


『そっ、そうよ!』


「ふふっ。もう、電話をかけてきてくれたんだね?」


『なっ! べっ、別にあれよ! その、本当に繋がるのかどうかの確認だから!』


「あははっ。そっかそっか。うん、無事に繋がったね」




 明美さんって――本当は、優しい人なのかな?

 わざわざ、繋がるかどうか確める為に、連絡をしてくれるなんて。




『その……今日は、悪かったわね。あんな、変なことに巻き込んじゃって』


「ううん。気にしないで。それに――あんなに楽しいゲームをしたのって、私、初めてだったから。ちょっと、得した気分っていうか」



 と、そう言いつつ、二階へと上がった私は、自室のベットへと身体をあずける。




『楽しかったって……それ、本気で言っているの?』


「えっ? うん。本当だよ」


『……変わっているわね、あんた。て、そうだ。どうせだから、ついでにきいちゃうけど――あなた。本当に合戦遊戯、初心者なの?』


「えっ? あっ、うん。大会とかには、出たことないよ」


『てことは、かなりの数、ソロでやり混んでいたとか?』


「うーん、どうだろう……。たしかに、中学時代とかは、遊ぶ場所がほとんどなかったから、やっていたけれど――」




 それでも、指で数えられるくらいだったと思う。




「フルダイブは、していたんだけれど、ほとんど学園サーバーとかで、遊んでいたから……合戦遊戯は、数えられるくらいしかしてないかな?」


『そう……それならやっぱり、才能あるわよ。あんた』




 えっ!?




「そっ、そうかな~」


『えぇ、本当よ。再戦してからは、私が指示をしなくても、私の想像していた手順と、近い方法で動いていたもの。それに、なにより――全体の動きを視るのが、上手よ。これって、意外と難しいのよ?』


「全体の動き?」


『そう。例えば、右端で起きている戦闘と、左端で起きている戦闘。ミニマップ上でわかると言っても、戦況なんて、一秒後には、すぐ変化するわ。だから、指示を出す大将なんてのは、そこら辺の動きを敏感に察知する力が必要なの』


「へー、そうなんだ」


『そうなんだって……あなたね。これが、どれだけ難しいことか、理解していないでしょう?』




 うっ。

 それは、確かにそうだけれど……そんなに難しいことなのかな?


 私は、ただ危険そうな場所。困っている場所を見つけて、そこが安全になるのように動いただけ。


 難しさでいうなら、明美さんの指示の方が難しそうだったけれど。




「でも、私からしたら明美さんの方が、難しそうだったよ? ほら、地形とか有利性とか、そういうの考えて動いていたし」


『はぁ? 何を言っているのよ。そんなの、基本中のきほ――あっ、いや。なんでもないわ。こういうのが、ダメなのよね』


「? ごめん、後半の方が聞き取りずらくて、何て言ったの?」


『なっ! なんでもないわよ! そっ、それよりも、もう夜も遅いし――そろそろ切るわね。伝えたいことは、伝えられたことだし……』


「あっ、うん! わかった」




 と、明美さんの言葉に答えつつ、時計を確認してみると――あれ?


 まだ、夜の八時だ。

 夜遅く――てほどでも、ないと思うけど……。


 もしかして、明美さんからしたら夜遅く――なのかな?




「それじゃ、また明日」


『あっ! ちょっ、ちょっと待って!!』


「うん?」




 と、電話を切ろうとしたら、明美さんが、慌てた様子で待ったをかけてくる。


 なんだろう?




「どうかしたの?」


『あっ、その。えっーと……そっ、そうね。あーと。なっ、なんて言えばいいのかしら』


「?」


『そっ、そうね。その――もしあんたが、これからも合戦遊戯をするっていうのなら、その~まぁ。教えてあげない? こともないわよ? その、ととと、ともも』




 とも?




『とと、とも、友達? として? 教えてあげないこともないわ』


「えっ!? 本当? ふふっ。やった! それじゃ、今度も一緒のチームでやろうよ! 今日みたいな、理由じゃなくて――もっと、楽しい試合を!」


『あっ……うん。そうね……』




 あれ?

 なんか、声の明るさが、なくなっちゃった。


 もしかして――変なこと言っちゃったかな?




「ごっ、ごめんね。つい、舞い上がっちゃって。明美さんが嫌なら、全然私は」


『なっ! ちっ、違うわよ!!』


「ひゃい!?」




 びっ、びっくりした~!

 突然大声をだすから、スマホを落としそうになっちゃったよ。



『ごっ、ごめんなさい。つい、大声を出しちゃって』


「うっ、うんん。私が、悪かったみたいだから。こっちこそ、ごめんね?」


『いや。あんたは、何も悪くないわよ。ただ、その……わっ、私がメチャクチャ勇気をだしたのに、あんたがすんなり受け入れるから、なんかおかしな気がしたって言うか、なんていうか……」





 勇気?

 うーん……あっ! そうか。


 明美さんとは、賭けをしていたんだっけ?

 だから、私にこうして提案してくれることに、勇気をだしてくれたってことか!




「ごめんね。つい、明美さんからの提案が嬉しくて」


『嬉しっ!? そっ、そう……ふふっ。ふふふっ。そっ、それなら、仕方ないわよね。嬉しいなら。うん。それじゃ、あの、あっ、明日』


「うん! また明日ね」




 よかった。

 明美さん――許しくれて。








 


 明美さんとの電話を終えた次の日――。

 まだ、登校に不安があった私は、スマホで道を確認しつつ、何とか学校へとたどり着くことができた。


 迷っちゃうかと思ったけれど……無事に、時間内にたどり着けてよかった~。


 と、安堵の息をつきつつ、廊下を歩いていると、見知った背中を見つけた為、その背中へと声をかけてみる。




「茜ちゃん」


「おおぅ? おー、誰かと思えば、楓か。おは」


「うん、おはよう。……て、何をしているの?」




 と、挨拶を返すと、首を傾げつつ、茜ちゃんが耳をいじっていた為、不思議に思いきいてみると――。




「んっ? イヤリングつけているんだよ」


「あっ、そうなんだ……」




 風見さんに言われたこと、きちんとやっているんだね……。


 校則的には、アウトだったはずだけれど、風見さんに言われた方法を試すあたり、真面目なのか真面目じゃないのか……。



 と、イヤリングをつけた茜ちゃんに、私が苦笑いをうかべていると――。




「おっ、おはよう……」




 と、控えめな声で、後ろから声をかけられる。

 この声!



「おはよう! 明美さん!」


「おっ、おはよう。朝から元気ね」


「えっ? そうかな?」


「あっ! テメー特待生!!」




 と、私が明美さんと挨拶を交わしていると、イヤリングをつけ終えたらしい茜ちゃんが、私を庇うように前へと進み出てくる。




「声がデカイわよ。ギャルもどき」


「誰がギャルもどきだ! てか、まだ楓のこと諦めてねぇのか? どんだけ粘着質な性格してんだよお前!」


「ちょっ! 違うんだよ茜ちゃん!」




 なんか、変な勘違いをしているよ!

 と、明美さんへと私が慌てて止めに入ると、明美さんが呆れたようなため息をつきーー。




「粘着質は、あんたでしょう? 私と彼女はーーその。とっ、友達だもの。朝のあいさつくらい、普通のことよ」


「……はぁ?」


「そっ、そうなんだよ、茜ちゃん。実は、昨日友達になって」




 と、明美さんの言葉を肯定するように、私が伝えると、今度は、茜ちゃんがため息をつく。




「いやいや。そんなわかりやすい嘘、あるかよ。だって、昨日ケンカしてたじゃねぇか」


「あうっ。そっ、それは、そうなんだけれど……あれから色々あって、仲直りしたというか、なんというか」


「ともかく、私と彼女は、友達なの。わかったら、絡んでくるじゃないわよ」


「ふーん。それは、良いことね」




 えっ?

 と、明美さんと茜ちゃんの間に入りつつ、会話をしていると、全く違う人の声が割り込んでくる。


 あっ、風見さん?




「あん? 生徒会長じゃん」


「……その顔。すごく、嫌な予感がするんだけど?」


「朝から失礼ね、明美さん。それより、楓さん。学校の方には、少し慣れたかしら?」


「あっ、はい! 二人のおかげで、なんとか」




 ふふっ。それは、よかったわ。

 なんてことを、笑いつつ言う風見さん……だけど。


 なっ、なんか……目が笑ってない気がする?




「やべっ。楓、逃げるぞ」


「へっ?」


「賢明な判断ね、ギャルもどき。あの人のあの顔……何か、面倒なことを企んでいる時の顔よ」


「ふふっ。楓さん抜きでも、仲が良さそうで何よりだわ。これで、揃ったわね」




 揃った?

 と、私達三人に、視線を順に送ってきた風見さんはーー。




「明美志保さん。宮崎茜さん。そしてーー萌木楓さん。私を含めたこの四人で、部活動を初めてみない?」


「部活動ーーですか?」


「……まさか」


「ふふっ。勘の良い明美さんは、わかってくれたみたいね。そうね……この四人でする部活動なら――」




 と、なんかわざとらしい動きで、私達の周囲を周りだした風見さんはーー。




「合戦遊戯部……なんて、どうかしら?」




 と、まさかの部活動を提案してくるのだった。

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