剣をしまう。

エリー.ファー

剣をしまう。

 ピアノの音が聴こえる。

 どこからともなく足音のように聞こえる。

 誰かが本当を知っているのだと伝えるピアノの音である。

 もしも。

 このピアノの音が呪われているのであれば、私はどこへと向かわなければならないのだろう。

 このピアノの音から逃れる術を知っている者はいるのだろうか。

 私は苦労の中に埋もれ。

 私は悲劇の中に埋もれ。

 私は被害妄想の中に埋もれ。

 私という人格を捨て去る以外の生き方を捨ててしまうことになるのだろうか。

 何が私を作っているのだろう。

 このピアノの音への恐怖心も、おそらく私そのものだ。

 私を、私として、この世の中に存在させる何かは、私のことを愛してくれているのだろうか。

 本当を教えて欲しい。

 できれば、真実でいいのだ。

 本当と、嘘と、完全と、答えと、星座と、空と、感覚と、涙。

 何もかも私。

 私から遠ざかることで、在り方を取り戻す旅路。

 もしかして、私には何か足りないものがあるのではないだろうか。

 金箔のような輝きと脆さの上に、私ではない何かが私を名乗ろうとするという時間が重くのしかかってくる。

 風に呼び掛けるようなことはしない。

 罪深くなって消えてしまうから。

 海に呼び掛けるようなことはしない。

 物語がやって来て宝石の中に消えてしまうから。

 罪に呼び掛けるようなことはしない。

 罰を求めて生きるすべての人々に意味を感じさせる呪いになってしまうから。

 今から君は、北へ行くといい。

 失ったものが全て見つかるから。

 今から君は、南に行くといい。

 君が君として在り続けることができる核心を得ることができるから。

 今から君は、東に行くといい。

 休息から始まる創作とは何かを知ることができるようになるのだから。

 今から、そして、これから先、ずっと。

 西にだけは、行ってはいけない。

 君の不幸を求める者たちが手招きをしているだけなのだから。

 さようなら。

 私の知っている君と僕の物語。

 さようなら。

 情報だけが渦を起こして、涙の中に落ちていく音の創り出す真実を忘れてしまう前に。

 さようなら。

 別れの言葉が私たちを強くすることなどないけれど、音と音の間で何かが見えてくるはずなのだから。

 さようなら、そして、さようなら。

 枯葉が積み重なって洞窟の中で燃えている。

 いつか、青い空に自分の体が落ちていく恐怖に悶えて、答えを探す旅に出なければならない。

 これは、君が決めなければならない。

 君以外が決めてはならない。

 いや。

 君以外が決めることなどできない。

 ただ、紡がれていくだけの時間が必要というだけに過ぎないのだ。

 哀れではないか。

 悲しみそのものではないか。

 遠くで見ても、近くで見ても悲劇ではないか。

 溶鉱炉に落ちていく君の姿を見つめて今を感じる最高の時間ではないか。

 君が戻って来ることはない。

 私が迎えに行くこともない。

 無限の彼方で漆黒に燃え続けて炭と化した君の笑顔に万々歳。

 笑顔と拍手で作り出した最高の一瞬。

 青春だ。

 イデオロギーだ。

 文系だ。

 理系だ。

 再現可能性の低い知識だ。

 再現可能性の高い知識だ。

 頑張っているから。

 楽しんでいるから。

 結果を出しているから。

 ちゃんと羨ましがられる側に回っているから。

 たぶん、大丈夫のやつで。

 これは、その合っているやつで。

 ちゃんと自分のやっていることに自信があるという風に見えるような振る舞いもちゃんとできている感じで、それなりに頑張っていて、愛されるくらいの不器用さを醸し出している系で動き回ることができている風なので、苦労してますよアピールも上手いこといっている感じなのだから、今のところはこのままでも大丈夫そうと思いつつも、手を抜かないようにして、でもガードはしても、ガードしていること自体は世間や年上とかファンとか権力を持っている人にばれないようにする系の感じ風のそれっぽく見える系立ち振る舞い計算風なのだ。

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