第20話 内に秘めた気持ち
最近、私には悩みがある。
それは最近、夏紀との距離が離れてしまっていることだ。
私は夏紀のことが好きだ。
中学までは異性の中で一番仲の良い友人という認識だったが高校に入って、好きに変わった。
夏紀の何気ない言動が好きだ。
静かな性格ながら時々自分にだけ見せてくれる笑顔がどうしようもないくらい好きなのだ。
そんな私の初恋は夏紀に彼女ができたことによって終わったはずだった。
自分の気持ちを封印して夏紀とこのまま距離を置くつもりだった。
けれど夏紀に痴漢から助けられたことからまた距離が戻り始めた。
封印していた気持ちも封印しきれないくらい溢れ出していき、また夏紀のことを好きになった。
今度こそは夏紀の隣に彼女として立ちたい。
そう意気込んでいた。
しかしまた距離が開き始めている。
私が何かしてしまったのか遊びに誘っても断られるし、一緒に帰ろうと言っても先約があるからと拒否される。
明らかに避けられている。
それに最近の夏紀は様子がおかしいのだ。
人との交流を好まなかった夏紀が複数人の友人らしき人物といるところを高頻度で見かける。
あれ以降、しばらく経っているし好きな人でもできたのだろうか。
***
「私......夏紀に何かしちゃったのかな」
休み時間、静音は机にもたれかかってため息をついた。
静音の目は窓の向こうの青い空を捉えているが別のものを見ていた。
実は授業もあまり集中できていなくて今日の内容はあまり覚えていない。
夏紀との関係に悩みすぎていたのだ。
そうして一人悩んでいると友人である
「どしたん、静音。今日、元気ないね」
「やっほ、春華......ちょっと疲れてね」
「最近、ずっとこの調子じゃん。話聞こうか?」
「ううん、別にいいよ。個人的な悩みだし」
静音は誰にも好きな人がいることを言っていない。
匂わせで夏紀にだけは言った。
けれど鈍感すぎて気づかれていない。
しかしそんな静音がお見通しだったのか春華はニヤニヤとした顔をし始めた。
「あ、もしかして恋のお悩みですか?」
「は、はあ? 違うから」
「静音、わかりやすい~。誰好きなの?」
「だから個人的な悩みだって言ってるでしょ」
「誰にも言わないからさ......前に北条に告られてたけど結局振ってたし気になるんだよ。私の静音を落とす作戦が見事失敗だった訳だから」
「北条くんに協力してたんだ、全然気づかなかった」
「そうだよ、相談受けたからね......で、結局悩みって何?」
この調子だと引きそうにない。
高一から親しい友人である春華ならいいかと静音は話すことにした。
「そうだよ、恋の悩み。この学校に幼馴染がいてね、その子に一年くらい恋してる。だけど最近ちょっと避けられてる感じしてさ」
「幼馴染? そういえばこの学校にいるって言ってたね」
「そうそう。クラス別だけど親友でもあって私の好きな人でもある」
「ふーん」
「いいでしょ? これで。あんまり面白くないよ」
静音は春華から目を逸らして再び窓の方を見る。
クラスが違う上に接点がない春華に相談してもどうにもならない。
しかし「もっと聞かせて」と春華は言ってくる。
「一年か......どんなところが好きなの?」
「どんなところって言われても......や、優しいところとか? 理由聞かれても好きなものは好き」
「んー、ガチ恋ですね。そんな人に避けられて何かしちゃったかもと不安になってる訳ですか」
「そんなところ」
いっそのこと告白して諦めた方がいいのだろうか。
そんな勇気はないが自分の気持ちにも整理がつけられる。
「.......色々聞きたいけどすごい落ち込んでるから聞けそうにないな、こりゃ」
「聞いても答えない」
静音はそう言って机に顔を伏せる。
元はと言えば自分の気持ちを伝えずダラダラと引っ張っている自分が原因なのだ。
そうして落ち込んでいると予鈴が鳴った。
「ま、頑張って、相談乗るから」
「うん、ありがとう」
春華は席へ戻っていく。
ひとまず授業には集中しようと静音は姿勢を正した。
けれど目線は下を向いてしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます