第3話 偶然の出会い

「ちなみに夏紀は何で彼女と別れたの?」


 朝、静音と共に電車を待っていると静音はそんなことを聞いてきた。

 

 思い出すとまだ心が痛くなるがそれでも少しずつ回復してきた。

 故に静音であればそこまでつまらずに話すことができる。


「彼女の方から別れを告げられて......後で知ったんだが結構前から一個上の先輩と普通に浮気してて俺に飽きてたみたいだ」

「え、本当?」

「本当、だから余計に心にきてる」

「......そっか、ひどいね」


 夏紀は彼女のことをかなり愛していたが向こうは遊び半分だったらしい。

 人の本心というのはやはり分からない。

 だからあまり信用できない。


「しかもなんか悔しいや」

「悔しい?」

「あー、えっと、何でもない......でもさ、そんな人と別れて正解だったんじゃない?」

「......一応、結構愛してたんだけどな」

「ご、ごめん、流石にちょっと言いすぎた」

「いや、別に大丈夫だ。いつまでも引きずってても仕方ないしな」


 かなり夏紀は前の彼女のことを信頼していたので裏切られた時の喪失感は大きい。

 

 (もう彼女は作りたくないな......いや、彼女作る以前に女子との接点が静音以外ないから杞憂か)


「じゃあ私が夏紀の彼女になってあげよっか? 私、結構一途だよ?」


 静音はイタズラっぽくそう言った。

 思春期故に一瞬、勘違いして鼓動が大きく鳴ってしまったがそもそも静音が俺に好意を向けるはずがない。


「ごめん、無理」

「いや、冗談だから! ていうか真面目に振るとかひどっ。傷ついたんですけどー」


 静音は少し頬を膨らませてジト目で夏紀の方を見た。

 そんな静音を見て夏紀は思わず小さく笑った。


 (相変わらず......変わらないな)


 嫌われていないということがわかった以上、夏紀の方も段々と昔のように接することができるようになった。

 素を出せるのは家族以外に静音だけかもしれない。

 昔から人からの評価には敏感だからあまり素でいるのは嫌なのだ。

 

 しばらく椅子に座って会話をしていると電車がやってきた。


「ん、電車来たね」

「だな」

「別に大丈夫だと思うけど、何かあったら守って欲しい」

「そのためにお願いされた訳だしな、しっかり守るよ」

「ふふ、なんか身長高いあんたがいうと心強いね」


 静音の声色が少しだが変わった。

 手も若干震えているように見受けられる。

 口では取り繕っているものの、やはり内心ではまだ引きずっているらしい。


 そうして電車のに乗り込んだ。

 電車の中は意外にも空いていて座れるスペースは一つはあった。

 比較的早い電車に乗ったので朝のラッシュを避けられたのだろう。


「一人分空いてるし、座る?」


 夏紀は静音にそう提案する。

 座った方が静音としても安心だろうし、夏紀も近くにいるので特に何もされないだろう。


「あ、えっと、いいや。な、夏紀も立ってるし、なんか悪いじゃん?」

「俺は別に気にしないけど......」


 静音はそう言って吊り革を掴んだ。

 どうやら夏紀のことを気にしているらしい。

 別に気にしなくても良いのにと思いつつ、夏紀も吊り革を掴む。

 隣にいて少し話をするだけでも防止にはなると思うので特に問題はない。


 そうして電車に揺られながらもある程度の注意を向けておく。

 学校付近の最寄り駅までは電車で大体25分くらいで着く。


「そういえばもうすぐ二学期中間だけど自信ある?」

「あんまりないな。勉強なんてしてないし」

「私も。中間までもう二週間は切ってるんだけどね」


 他愛もない話もしながら夏紀たちは電車に乗っていた。

 そうして三駅くらい乗った頃だろうか。


「んー、席空いてないね」

「やっぱり朝だし混んでるみたい」


 聞き覚えのある声が夏紀の耳に入ってきた。

 夏紀がかつて何度も聞いた声。

 

 (な、何でここに......今の彼氏の家にでも泊まったのか?)


 姿を見られたくなかった夏紀は静音の肩を叩いて移動しようと促した。

 静音は彼女のことを知っており、察したのか二人から見えない位置へと移動した。


「あ、席一個空いてるみたいだし、由花座る?」

「えー、みっくんは立ってるし私立つよ?」

「いいのいいの。それに座ってくれた方が由花の可愛い顔見られるし」

「もう、からかわないでよー」


 夏紀の元カノである佐村 由花さむら ゆいか、その隣にいるのはおそらく一つ上の先輩だろう。

 そんな会話を聞いて夏紀は眩暈がした。

 浮気していたと知ったのは由花とその友達の会話を偶然聞いてしまったから。

 夏紀が由花と相思相愛だと思っている間に裏ではこんな風に一個上の先輩といちゃついていた訳だ。

 その事実が夏紀の気分を悪くさせた。


「あの子、由花だよね。あと隣にいるのは......多分先輩......だよね」

「そうだな、紛れもない」

「......大丈夫?」


 朝から最悪な気分だ。


 (......俺って馬鹿だよな。由花が裏ではあんな風にしてたのに気づかなかった)


 とはいえこれ以上由花のことをもう考えたくはない。

 それに静音に心配もかけたくない。


「......もう過去のことだしな。流石に立ち直ってる。勝手にしてくれって感じだ」


 心配そうに目を向ける静音から夏紀は目を逸らした。

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