高校に入って突如冷たくなった幼馴染が痴漢されていたので助けた結果、次の日から幼馴染の様子がおかしくなった
テル
第1話 幼馴染を助けた
「カップル......か」
朝、登校中の
少し前まで微笑ましい目でカップルのことを見ることができたというのに今は見ても嫌悪感しかない。
果たしてこのカップルの恋はいつまで続くのだろうか。
(あー、ダメだな、完全にネガティブ思考になってる)
羨ましさからくる嫌悪感というよりは自身の痛い経験からくる嫌悪感。
故にリア充を妬んでいるというよりは嫌っているといった方が正しいだろう。
そもそも彼女以前にもう女性とは関わりたくない。
同性の友人でさえ少ない夏紀にとっては杞憂かもしれないが。
しばらく待っていると夏紀がいつも乗っている電車が来た。
行きたくないなと思いつつ、流石に勉強のためにも行かなければならないので重い体を椅子から立ち上がらせる。
そしてほぼ満員になっている電車に無理やり乗り込んだ。
まだ人は入ってくるので真ん中の方へと押し流されていく。
次第に電車は発車した。
狭い電車の中、夏紀は上を見上げて電車の天井を見上げる。
夏紀は周りと比べてもかなり身長の高い方だ。
おかげでこの満員の電車をある程度見渡すことができる。
この電車に揺られている時間は苦痛だ。
電車内の人が多すぎるので景色も見ることができず押しつぶされていてスマホもいじれない。
その上、蒸し暑い。
(もう少し早く起きればよかったな)
夏紀はそう後悔する。
いつもは今日より早い電車に乗っているのだが昨夜遅くに寝たせいか乗り遅れてしまったのだ。
その電車に乗っても混んでいることには変わりはないのだがもう少し空いている。
「っ......」
そんなことを考えながら電車に揺られている時、近くで女性の高い悲鳴のような声が聞こえた。
悲鳴と言っても非常に小さく、夏紀以外の誰も気づかないだろう。
特に気にするほどのことでもないだろうが夏紀は反射的に声がした方を見た。
すると、夏希の目に見覚えのある顔が映った。
幼馴染の
と言っても最近はなぜか距離を置かれていて嫌われているのだが一応、幼稚園から一緒だ。
しかしどうにも静音の様子がおかしい。
顔をこわばらせていて目は赤くなっている。
まるで何かに怯えているようだ。
(まさか......痴漢か?)
この満員電車の中、痴漢をしても被害者側が言い出さない限りバレにくい。
それに加えて女子高生は精神的にも大人に比べればまだ幼いので狙いやすいのだろうが相当悪質である。
夏紀は夏希の背後になっている男性の方を見る。
中年の男性でスーツを着て左手で吊り革を掴んでいる。
しかし右腕の方を見れば手は見えないが動いているのが確認できる。
確証はないが静音が痴漢の被害にあっていると見ていいだろう。
夏紀は人混みをゆっくりとかき分けて静音の近くに立った。
やはり静音は痴漢されていたようで後ろの男性が静音の体を触っているのが確認できる。
一応、スマホで証拠を撮った後、夏紀は後ろの男性の右手首を掴み、静音との距離を離した。
「次の駅で降りましょう、逃げないでください」
「な、なんだ、お前」
男性は夏紀の手を振り払い、後退りしようとする。
しかしこの満員電車の中、逃げられる訳もない。
「先ほどからこの女性の対して痴漢していましたよね」
「な......て、手が当たっただけだ」
「証拠も撮ってあるので逃げられませんよ。次の駅で降りましょう」
周りの客も少しずつ騒ぎ出していく。
朝から面倒なことに巻き込まれたものだ。
静音の方を見れば恐怖からか涙を流していたので夏紀はハンカチを手渡した。
***
「助けてくれてありがと......夏紀」
駅員に言い、警察に引き取ってもらった後、夏紀は静音と共に学校へと向かっていた。
授業に遅れている訳だが今更急いだところでなので二人とも歩いている。
「全然大丈夫だ、流石に見過ごせないし」
「......なんかごめんね、巻き込んじゃった。授業にも遅れちゃったし」
「静音が謝ることじゃない。とりあえず気づいてよかった」
こうして静音と話をするのは久しぶりかもしれない。
「なんか久しぶりだね、こうやって話すの」
「そうだな」
静音も同じことを思っていたようでそう言った。
訳もわからず急に静音は夏紀に対して冷たくなった。
夏休みが明けた時くらいからだろうか。
クラスは別だったので接する機会が少なくなっていた。
故に距離が離れることはあるかもしれないが話しかけた時の静音の態度が明らかに変わったのだ。
そこから夏紀も距離を置くことにして高校一年生の間は全く話さなかった。
何らかの理由があるはずだし、折角なのでそれを聞き出したい。
前回、と言っても冷たくなった時に理由を聞いたのだが、別に何も、とだけ返されたので理由を聞き出せていないのだ。
とはいえ今、聞き出す勇気はないのでひとまず別のことを聞く。
「静音は......学校生活の方はどうなんだ?」
「友達と一緒に過ごすのは楽しいけど......何かつまらないかな。そっちは?」
「普通......いや、正直言ってしまえば嫌だな」
「そ、そっか......」
今日は特にまだ心の傷も癒えていないので休みたいところだった。
夏紀にとっては学校はつまらない。
静音は幼馴染なので例外だがコミュニケーションが苦手な夏紀にとってまともに話せる友達もいない。
「彼女とは最近どう?」
「......つい最近別れた」
そんな夏紀にも本当につい最近まで彼女がいた。
コミュニケーションが苦手な夏紀にも積極的に話しかけてくれて、そんな彼女に惹かれていった。
そして去年の夏頃に付き合い始めた。
大切にしようと心誓った訳だが夏紀は最近、急に別れを告げられた。
それだけならまだ良かったかもしれないが、その翌日に男の先輩と二人で帰っているところを見かけた。
どうやら結構前から先輩と浮気していたらしく、飽きられていたらしい。
「な、なんかごめんね」
「別に気にしなくていい」
おかげで少し女性不信気味になっている。
少し話していると学校に着いた。
(多分、またしばらく話すことはないだろうな)
そんなことを思いながら教室へと向かった。
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