私の赤ちゃん
天川裕司
私の赤ちゃん
タイトル:私の赤ちゃん
(NA:妻)
「うふふ♪もうすぐだね。早くパパとママのところに来てね」
私は妊娠9ヶ月。
もうすぐ子供が生まれる。
嬉しくて嬉しくて仕方がない。
「ただいまー」
「あ、パパが帰って来たわ♪あなたおかえり〜」
夫が仕事から帰ってきて、リビングへ来た。
「……」
「お疲れ様ぁ〜♪…ん?どうしたの?」
「…またやってるのか」
「え?」
「それだよ」
夫は私を指差す。
「それって?」
笑いながら聞き返すと、
「もう忘れるんだ。悲しかったけど、でももう過去の事だよ」
「な、何言ってんのよあなたw」
「俺たちの子供は!…天国に帰っただろ」
「……えぇ??w」
「由美子!」
夫は私に走り寄り、思いきり体を抱きしめた。
「ちょ、ちょっとどうしたのよあなたw」
夫は泣きながらただ抱きしめるだけ。
(NA:夫)
妻はあれから悲しみのどん底にある。
それは俺が妻と同じぐらいよく知ってる。
だからこそ支えなきゃ、そう思っていた。
いろんな病院へも行ってきた。
最終的に心療内科へ通うことに落ち着いたが、
妻の状態は一向に治らない。
「じゃあ行ってくるからね。くれぐれも無理するなよ」
「……うん、行ってらっしゃい」
昨夜、散々諭して、妻は暗く落ち込んでいた。
こんな事がこれまで何度もあったんだ。
そんな妻を1人家に残すのは気が引けたが、
生活の為、やっぱり稼がなきゃならない。
だから俺は仕事が終わるとすぐ家に帰る。
でもやっぱり、人には限界がある。
「由美子?…由美子ぉ?…由美…」
鞄を床に落とし、体が消え去るほどに驚いた。
もう驚くと言うより悲しみの恐怖。
「由美子ぉ!!」
由美子はリビングで自らこの世を去っていた。
(取り調べ)
それから警察が来て、現場捜査が始まった。
「…捜査?」
警察「ええ。すみません、こんな場合でも他殺の線がないか調べなきゃならないんです」
目の前でなされている事が、
まるで遠い世界の事のようだ。
「由美子…」
何度、名前を呼んでも、由美子はもう帰って来ない。
警察「大丈夫ですか?少し休まれますか?」
「…いえ、大丈夫です」
仕事から帰って来ていきなり
こんな状況を突きつけられ、
俺はもう何のために生きてるんだか、
わからなくなっていた。
その時、よくわからないこと…
と言うか、奇妙な事が判ったらしい。
鑑識「警部、ちょっと良いですか?」
警部「ん?」
鑑識「こんなものが…」
帰ってきてまだ見ていなかった、
俺の机の上にメモ書きが置かれていたらしい。
どうやらそれは妻の遺書らしかった。
「…あなた、ごめんなさい。やっぱりあの子を1人に出来ないから、あの子と一緒に行きます」
「…由美子」
警部「奥さんは最近、想像妊娠をして悩まれていた、と言われてましたね?」
「ええ…もう1年ぐらいになると思います…」
警部「このクッションをお腹のところに入れて?」
「……ええ」
妻はお腹の中にクッションを入れ、
その気になって悲しみを紛らわせていた。
警部「大変失礼ですが、奥さん、最近誰かに恨まれていたとかそう言う事は…」
「そんなこと絶対に…!」
鑑識「警部、すみません。ちょっとこちらを見て頂けませんか?」
警部「ん?」
俺たちは鑑識の人に、なぜかトイレに呼ばれた。
鑑識「これです」
警部「…これは?」
鑑識「まだ詳しい事は分かりませんが、おそらく羊水かと」
警部「羊水?」
それは胎児を守るためのもの。
それから鑑識は床を指差す。
鑑識「それでこれなんですけど…」
警部「……」
鑑識「微妙ですが、何かが這った跡があるんです」
その這った跡と言われた床は微妙にテカッていた。
おそらくそのテカりは羊水によるもの。
警部「…でもなんでこんなところに…」
「…この場所…」
そう言って俺は警部と鑑識の人の方を見た。
「…妻が流産した場所なんです」
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=6gFWXd0lkJs
私の赤ちゃん 天川裕司 @tenkawayuji
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