MEKABU
星咲 紗和(ほしざき さわ)
プロローグ
夜の静かな漁港。海風が心地よく吹き抜け、波が穏やかに岸壁に打ち寄せる。人々の喧騒もすっかり消え、月明かりが水面に反射して揺れている。そんな静けさの中、漁師たちが投げ捨てた大量のめかぶの山が、ひっそりと眠っていた。
その中に、ひとつ、ほのかに輝くめかぶがあった。何の前触れもなく、そのめかぶに「何か」が宿ったのだ。それは、命でもあり、魂でもあり、未知のエネルギーだった。
「ふわっ……」
突如として、めかぶは軽く浮き上がり、海風に乗って宙に舞った。そして、その瞬間、めかぶは小さな妖精へと姿を変えた。緑色のふわふわとした身体に、笑顔を浮かべた不思議な表情。まるで水の中を漂っているかのように、空を軽やかに舞う。
「ここはどこだろう……?」
妖精となっためかぶは、周りを見渡して、初めて言葉を発した。そして、ふわふわと漁港を漂いながら、風まかせの冒険が始まることを、彼自身もまだ知らなかった――。
風が吹けばどこかへ飛ばされ、止めば地面に落ちる。それでも、いたずら心を持ったこの妖精は、これから港町やその住人たちに、数々の笑いと騒動を巻き起こしていくのだ。
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