オタクに優しいギャルを寝取りたい ~何してもオタクくんの好感度が上がるけど、俺は絶対に諦めない~

下城米雪

第1話 ボクが先に好きだったのに……

 立てば歓声。座れば悲鳴。

 歩く姿は……おいおい、そんなに集まったら通れないじゃないか。


 やれやれ、困った女の子達だ。

 俺が軽く前髪をかきあげると、周囲はキャーという黄色い歓声に包まれた。


 これが俺、風間かざまみやびの日常。

 スタイル抜群で、とにかく顔が良い。


 俺に落とせない女子は存在しない。

 それが今日までの十七年間で培われた常識だった。


 五月七日、火曜日。

 校舎内の曲がり角で女子とぶつかりかけた。


 衝突は避けた。

 しかし、女子が手に持っていた本を落としてしまった。


「ごめんね」


 俺は反射的に本を拾った。

 その瞬間、しまったと思った。


 俺は罪な男だ。うっかりイケメンスマイルを浮かべてしまう。こういうことをする度、恋に悩める女の子を生み出してしまうのだ。


 しかし、彼女は違った。


「ありがと」


 何事も無かったかのように遠ざかる背中。

 ゆらゆら揺れる金色の髪を見ながら、俺は過去の出来事を思い出していた。


 ある日のこと。

 いつも通り、俺は女子に囲まれていた。


 勇者が現れた。

 彼の名前は松田くん。


 松田くんは、俺と会話している女子に声をかけた。

 その女子は松田くんに笑顔を向けた。しかし、目は全く笑っていなかった。


 俺は知った。

 あれが、相手に全く興味が無い時の笑顔だ。


「……同じだった」


 俺のイケメンスマイルを見た女子の反応は、頬を赤らめて硬直するか、顔を真っ赤にして立ち去るか、その場で連絡先を聴いてくるか、いきなり告白するか……まぁ、バリエーションは多いけれども、とにかく、そんな感じだった。


 先程の女子は違った。

 この俺、超イケメンである風間かざまみやびに全く興味関心を抱いていなかった。


「……ふっ、おもしれー女」


 こうして俺は、生まれて初めて特定の女子に興味を持った。



 *  *  *



 恋愛の基本は相手を知ることである。

 だから俺は麗しの金髪ギャルを徹底的に調査した。


 彼女の名前は舞浜まいはま莉子りこ

 派手な金髪と化粧、そして毎日変わるネイルが印象的な女子である。


 家族構成は両親と弟の四人。

 帰宅後はバイトに勤しみ、派手な外見を維持するためのお金を稼いでいる。


 とても面倒見の良い性格で、朝は忙しい両親に代わって家事を担っているようだ。これらの情報は、彼女の弟にアプローチすることで手に入れた。


 どうやって弟と知り合ったのかって?

 愚問だな。彼女の後をつけて家を特定した後で弟の存在を知り、偶然を装って近付く以外に無いだろう。


 さておき趣味は意外にもアニメ鑑賞。弟は、部屋に入ることを許されていないが、夜な夜な変な声が聞こえて困ると言っていた。


 好きな食べ物はうどん。

 嫌いな食べ物はピーマン。


 身長は推定164センチ。

 体重は不明。おっぱいは大きい。


「基本的なプロフィールはこんなところか」


 次は学校生活について。

 クラスは2D。部活は未所属。彼女は一匹狼のような存在であり、特定のグループには属していない。女子としては珍しいタイプである。普通は「いじめ」の標的になりそうだが、そういう噂は無い。むしろ誰とでも仲良く会話できるタイプみたいだ。


 さて、次が最も肝心な情報である。

 彼氏に関する情報は、いっぱいあった。


 だ、だだ、だだだだけど信憑性は薄い。

 本人の口から聴いたわけではないからだ。


 俺は全く慌てていない。

 仮に彼氏が居たとしても関係ない。


 だってそれは、俺と知り合う前の話なのだから。


 全部、上書きしてやるよ。

 べ、べべべべつにフリーではないと決まったわけじゃないが、とにかく関係ない。


 だって俺はパーフェクトなイケメンだから。

 俺と、それ以外を並べたら、全ての女子が俺を選ぶに決まっている。


 今まで数々の女子に惚れられ「ボクが先に好きだったのに……」みたいな同性からの嫉妬を受けた。逆の立場になることなど、絶対にありえない。


 この俺、風間雅は、常に羨望の眼差しを向けられるべき人間なのだ。


「行動あるのみ」


 これ以上の情報収集は必要ない。

 俺は彼女との接触を試みることにした。


 帰り道。

 偶然を装って接触する。


 俺は先日のことを謝罪した。

 彼女は「気にしていない」と無難な返事をした。


 数歩、あえて無言で隣を歩く。

 これは作戦である。彼女は、このまま普通に「さよなら」する選択肢もあるけど、しばらく帰り道が同じかもしれない、と思ったはずだ。


 べつに敵対しているわけではないのに、足早に去るなど印象が悪い。しかし、このまま無言で隣を歩き続けるのも居心地が悪い。


 何か話しかけよう。

 そんな風に思うであろう絶妙なタイミングを狙って、俺は会話を振った。


 パーフェクトだ。

 楽しい帰宅デートの始まりだぜ。


「へぇ、莉子はアニメとか好きなフレンズなのか」

「それな。てか風間くん、古いネタ知ってるね」

「莉子と話したくて覚えたって言ったら、どう思う?」

「えー? うーん……あはっ、きっしょ」

「それは流石に酷くね?」


 早速、ここまで距離を詰めることに成功した。

 まだ会話が始まってから十分しか経っていない。我ながらパーフェクト過ぎて怖いくらいだ。そして……やっぱり、おもしれー女だ。


 俺がどれだけ甘い言葉を口にしても全く落ちる気配が無い。

 少し強引に行けば落ちるかもしれないが、それは最後の手段だ。


「それじゃ俺はこっちだから」

「おっけー。またねー」


 適当な分かれ道でさようなら。

 こうして初回の会話は終わった。


 さておき俺との別れを全く惜しまないとか……一体どれだけおもしれー女なんだ。舞浜莉子……!


 だが、焦る必要は全くない。

 このまま接触を続ければ、いずれ落ちるはずだ。


 ――と、信じていた。

 

 *  *  *


 一ヵ月後。

 もはや事実婚ならぬ事実カップルだと言っても過言ではない距離感になった。


 ふっ、そろそろ頃合いだな。

 委員会の仕事で遅くまで学校に残っていた俺は、告白のプランを考えながら、ほぼ無人と化した校舎の静かな廊下を歩いていた。


「……この声、莉子か?」


 足を止め、耳を澄ます。

 また聞こえた。誰かと話しているようだ。


「珍しいな。こんな時間に」


 多分、ひとつ先にある教室の中だ。

 俺は、特に何も考えず、その教室を目指した。


 そして目撃した。

 とある男子と二人、見たことのない表情で会話する姿を。


「――!?」


 俺は咄嗟に身を隠した。

 分からない。なぜ、俺は身を隠した?


 ただ……どういうことだ。

 なんだ。なんなんだ、この感覚は。


 莉子の顔を見た。それだけだ。

 隣に男子が居た。それだけだ。


「……そんな、馬鹿な」


 俺は、あの表情を知らない。

 だけど分かる。いつも、不特定多数の女子から同じ表情を向けられていた。


 あれは、恋する乙女の姿だ。


「……んぐっ」


 強烈な頭痛を感じた。

 その直後、吐き気がした。


「……なんだ、これ」


 ありえない。

 こんな、この俺が、こんな……。


 深呼吸ひとつ。

 もう一度、教室の中を覗き見る。


 そして俺は、ほとんど無意識に呟いた。


「ボクが先に好きだったのに……」


 この一ヵ月、莉子の行動は、ほぼ全て把握している。

 男の影は全く無かった。あんな男子と会話している姿など知らない。


 パッとしない外見だ。

 彼の反応を見るに、きっと知り合ってから間もない。


 俺と、あいつ。

 二人を並べて、莉子はあいつを選ぼうとしている。


 瞬間、心が熱をともした。

 いつの間にか床に倒れていた俺は、頬に冷たさを感じながら言う。


「……ふっ、やっぱり、おもしれー女だぜ」


 上等だよ。

 必ず、分からせてやる。


 ――こうして、俺の青春が始まった。

 まるで物語のプロローグだ。莉子が大好きアニメ風に言うなら『風間雅の横恋慕』みたいなタイトルだろうか。いや、もっと今風なタイトルが良い。例えば……そう、『オタクに優しいギャルを寝取りたい』みたいな感じだ。


 寝取る……悪役みたいな響きがある言葉だな。

 だが受け入れよう。俺はパーフェクトなイケメンなのだ。


 悪役上等。この世は結果が全て。

 教えてやるよ。最後に笑うのは、この俺、風間かざまみやびだ。


 ふっ、ふふ。ふはは。

 あーはっはっはっはっは!




―――


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